仕事はない、帰る場所もない、土地だけはある

絶え間なく続くパワハラに耐えかねて、上司の「聖女なんか辞めちまえっ!!」の言葉に即座に反応し、その場で聖女を辞めたアルム。そのままこれまで使う暇もなかった給料で貧民地区の廃公園の土地を買ってそこで暮らすことに。土地はあれど建物はない。そんな環境で若い娘が暮らして行けるはずがない……と思いきや、聖女パワーで結界を張り、聖女パワーで公園に次々と植物に果物を実らせ、快適なホームレス生活を送るのであった。

一方で彼女に逃げられたパワハラ上司にして、国の第七王子であるヨハネス。別に悪気があったわけではなく、彼はアルムの才能を存分に伸ばすために厳しく当たっているつもりだったのでこの状況に大困惑。どうにかしてアルムを連れ戻そうと考えるが、周りにパワハラ野郎と認識されているせいで、アルムの下に向かおうとすると、アルム以外の聖女たちや聖騎士たちにとことん邪魔をされてしまう……一応王子のはずなのに……。

アルムの快適なスローライフ生活を描きつつも、周囲からとことん辛い目に遭わされるヨハネスのギャップが楽しく、貧民街で起きるトラブルやアルムの力を利用しようとする王子たちや国を揺るがす陰謀など次々やってくる難題も、聖女パワーで公園から一歩も出ずに解決していく姿が実に爽快。終始コメディタッチで進むギャグ満載の楽しい一作だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)