ロボットによる介護問題の解決を描くSFと見せかけてからの……

現代の問題を未来の技術によって解決するというのはSFの大きなテーマの一つ。そして本作では高齢化社会に伴う介護問題に対してロボットによる介助を描いている。
主人公が勤める老人保健施設では、夜勤の時にだけ人間の意識を介護用ロボットに転送して入居者の介護を行っている。だがその施設ではある噂が流れていた。夜になると本来施設にいないはずの人影が現れるというのだ……。

本作でまず注目すべきはリアリティ溢れる介護施設の仕事の描写であろう。施設で暮らす老人たちには、日常の小さな動作や単純なコミュニケーションにも多くの困難が生じる。そこをロボットが持つ様々な機能を用いてサポートしていくのが、物語の前半にあたる。
この時点ではお仕事小説のような趣があるのだが、後半に行くと、主人公は突然思いもよらぬ異常な状況に追い込まれる。一つまちがえれば荒唐無稽にもなりかねないのだが、前半で地に足の着いた描写を積み重ねているからこそ、この展開にもしっかりと説得力を持たせることに成功している。

突如追い込まれた極限状況でありながら、介護の話などどこか行ってしまいそうなものなのだが、そこで主人公の仕事と入居者たちに対する思いをしっかり描ききっているのも実に巧みだ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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