現代社会や仕事場へのSF設定の介入が見事です。
職業用語や近未来のSF設定の説明がわかりやすく、物語の進行とともにタイミングよく挟み込まれていて大変読み易く、また考えられる問題点や対処法などがリアルなので、読んでいて違和感を感じさせません。
ぞれぞれの職場で働く人々の性格傾向や話し方、立場ごとの人物・人柄設定もやはり現実に居そう、またそういう風に考えそうなので、実際にその職場を見ているような臨場感があります。
そこに悪意や変にもったいつける仕掛けもないのに読ませる物語展開。
読み手の人は安心して読めて、書き手の人はその手法が勉強になると思います。
現代の問題を未来の技術によって解決するというのはSFの大きなテーマの一つ。そして本作では高齢化社会に伴う介護問題に対してロボットによる介助を描いている。
主人公が勤める老人保健施設では、夜勤の時にだけ人間の意識を介護用ロボットに転送して入居者の介護を行っている。だがその施設ではある噂が流れていた。夜になると本来施設にいないはずの人影が現れるというのだ……。
本作でまず注目すべきはリアリティ溢れる介護施設の仕事の描写であろう。施設で暮らす老人たちには、日常の小さな動作や単純なコミュニケーションにも多くの困難が生じる。そこをロボットが持つ様々な機能を用いてサポートしていくのが、物語の前半にあたる。
この時点ではお仕事小説のような趣があるのだが、後半に行くと、主人公は突然思いもよらぬ異常な状況に追い込まれる。一つまちがえれば荒唐無稽にもなりかねないのだが、前半で地に足の着いた描写を積み重ねているからこそ、この展開にもしっかりと説得力を持たせることに成功している。
突如追い込まれた極限状況でありながら、介護の話などどこか行ってしまいそうなものなのだが、そこで主人公の仕事と入居者たちに対する思いをしっかり描ききっているのも実に巧みだ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
最後の最後まで優しい主人公が活躍するお話です。
初めは介護職の戦争のように過酷な現場の、お話だと思っていました。でも違います。常々、介護職の方々は、優しい方でないと務まらないと感じていました。私では絶対に務まりません。
そんな優しい主人公は、不思議な世界へ巻き込まれてしまいます。そして大変な苦労の上で人助けをするわけですが、動けなくなる一瞬前まで、人の世話を焼いてしまいます。表題の言葉がそうです。
戦争なんて無い方が良いに決まっています。でもその中でこんな事を言われたら、死ぬまで忘れられないだろうな、と思いました。