『魔法少女まどか☆マギカ』という傑作が魔法少女界に一石を投じてから早くも9年。あれから魔法少女という概念は大きく拡張され、様々なタイプの魔法少女が登場してきた。そして今回はカクヨムの魔法少女作品を紹介しよう。その内容は千差万別。魔法少女が消えた世界を懸命に生きる少年、魔法少女と会うために奇妙なオブジェを作り続ける高校生と魔法少女の関係者の物語から、亡くなった姉と同じ魔法少女になった少女という比較的ストレートな魔法少女ものや、魔法が使えない魔法少女と暮らす青年という変化球の話まで。魔法少女という同じ題材を扱いながら、全く方向性が異なる4つの物語をぜひ楽しんでほしい。

ピックアップ

愛する人を失った世界で、少年はどう生きたのか

  • ★★★ Excellent!!!

この世から戒獣(コマンドメンツ)を消すために、魔法少女オラクル=顕月万理が自らを犠牲にして世界を丸ごと作り直したところから物語は始まる。

誰もが戒獣を、そしてオラクルの存在を忘れた世界で、玄野一宇だけは唯一前の世界の記憶を残していた。失われた家族は甦り、拍子抜けするぐらいに平和な日常を前に、再び家族と暮らせる喜びと万理を失くした悲しみの板挟みで日々を送る一宇。そんな中で彼が出会ったのは前の世界で戒獣の力を借りてオラクルに敵対した魔法少女・葵条新葉だった……。

愛する人を失ったが、だからこそ彼女の犠牲に報いるために、周囲の人々が幸せになれるよう必死に行動する一宇。その思いは非常に尊い……尊いのだが……。

物語の終盤で読者を待ち受ける展開は、一歩間違えれば唐突で理不尽なものになってしまうかもしれない。しかし一宇の視点から過去と現在を丁寧に描写した本作では、まさにこうなるしかなかったと納得せざるをえない内容になってしまっているから凄まじい。

ストーリーの強烈さはもちろんだがSF風な戒獣の設定も非常に凝っていて、色んな意味で読み応えのある一作だ!

(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)

その高校生は今日も砂場に通い続ける

  • ★★★ Excellent!!!

本作を端的に説明するなら、一人の男子高校生が子供をアイスで買収し公園の砂場を占領して日々奇妙なオブジェを作り続ける物語である。

……これだけだとよくわからないかもしれないが、本作ではそこにシンギュラリティや魔法少女という要素が関わってくる……ますますわからない。

そんな一見シュールに見える物語なのだが、最後まで読み終わると全てが腑に落ちる内容になっているから凄い。

スコップとバケツを持って公園に通い続ける現在、自称・魔法少女と出会った子供時代、とある研究者と妙に人間臭いAIの会話、これらのバラバラの3つのパートが最終的に噛みあうことでそれまで不可解だった物語に一つの答えが導き出される。これこそが科学である。

また犬型のAIが見守る公園の風景、変人扱いされる主人公と周囲の人々の会話、やたら詩的なアイスのフレーバー名、など作品を構成する要素がいずれも良い味を出していて、読み終えた後には爽やかな気持ちになること間違いなしの一品だ。

(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)

願いはすれ違い、魔法少女はどこまでも落ちていく

  • ★★★ Excellent!!!

二年前に姉を失った葉風つばき。ある日、身体から花を生やした不気味な男と遭遇し、それに追いかけられる中で魔法少女になることを決断する。そう、二年前に亡くなった姉と同じ魔法少女に。

高所から落下することで魔法少女になるという設定や、少女の姿をした僕っ娘マスコットキャラなど色々ユニークな本作だが、それ以上に注目したいのが、緻密に構築されたストーリー。2年前に姉の身に何が起こったのか、魔法少女が戦っている存在『徒花』とは何なのか、なぜ魔法少女が誕生したのか。これらの疑問に答えるため物語は現在と過去を行き来し、様々な人間関係を織り成しながら、ある一つの結末へとたどり着く。しかし、そこで得られる答えとは……。

誰もがハッピーエンドを望んでいたはずなのに、思いはすれ違い続け互いを傷つける。絶望的な運命の中で、それでも最善を為そうと抗う登場人物の姿は、美しい文章の力も相まって切なくも力強い印象を残す。

(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)

魔法少女と暮らした三か月間の記憶

  • ★★★ Excellent!!!

友達もおらず目的もないのに日々バイトばかりして過ごす大学生の雨宮。ある日彼はバイト先の同僚から魔法少女をレンタルできる店の存在を知らされ、興味本位で試してみることに。しかし、彼の貯金でレンタルできたのは魔法が使えない半人前の魔法少女・渚だけだった。

かくして始まる二人の奇妙な共同生活。他人とのコミュニケーションが苦手な雨宮と、どこか事務的な態度が目立つ渚。当然最初はぎくしゃくするが、徐々に打ち解けていく。渚は学食で食事をしたり、本を買ってもらったりと些細なことで喜びを見せるようになり、雨宮は渚のアドバイスを受けて少しずつ周囲の人たちと会話もするように。それぞれ変化を見せる二人だが、そんな中、渚のレンタル期間の終了が迫り……。

魔法を使えない魔法少女と友達のいない大学生という、不器用な二人の物語。華々しい魔法や大きな奇跡はないけれど、他愛ないことで笑ったり、些細なことで悩んだりと等身大の二人の日常は読んでいてじんわりと心に沁みてくる。この一文しかないというラストもお見事で温かい気持ちになれる中編だ。

(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)