愛する人を失った世界で、少年はどう生きたのか

この世から戒獣(コマンドメンツ)を消すために、魔法少女オラクル=顕月万理が自らを犠牲にして世界を丸ごと作り直したところから物語は始まる。

誰もが戒獣を、そしてオラクルの存在を忘れた世界で、玄野一宇だけは唯一前の世界の記憶を残していた。失われた家族は甦り、拍子抜けするぐらいに平和な日常を前に、再び家族と暮らせる喜びと万理を失くした悲しみの板挟みで日々を送る一宇。そんな中で彼が出会ったのは前の世界で戒獣の力を借りてオラクルに敵対した魔法少女・葵条新葉だった……。

愛する人を失ったが、だからこそ彼女の犠牲に報いるために、周囲の人々が幸せになれるよう必死に行動する一宇。その思いは非常に尊い……尊いのだが……。

物語の終盤で読者を待ち受ける展開は、一歩間違えれば唐突で理不尽なものになってしまうかもしれない。しかし一宇の視点から過去と現在を丁寧に描写した本作では、まさにこうなるしかなかったと納得せざるをえない内容になってしまっているから凄まじい。

ストーリーの強烈さはもちろんだがSF風な戒獣の設定も非常に凝っていて、色んな意味で読み応えのある一作だ!

(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)

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