この世から戒獣(コマンドメンツ)を消すために、魔法少女オラクル=顕月万理が自らを犠牲にして世界を丸ごと作り直したところから物語は始まる。
誰もが戒獣を、そしてオラクルの存在を忘れた世界で、玄野一宇だけは唯一前の世界の記憶を残していた。失われた家族は甦り、拍子抜けするぐらいに平和な日常を前に、再び家族と暮らせる喜びと万理を失くした悲しみの板挟みで日々を送る一宇。そんな中で彼が出会ったのは前の世界で戒獣の力を借りてオラクルに敵対した魔法少女・葵条新葉だった……。
愛する人を失ったが、だからこそ彼女の犠牲に報いるために、周囲の人々が幸せになれるよう必死に行動する一宇。その思いは非常に尊い……尊いのだが……。
物語の終盤で読者を待ち受ける展開は、一歩間違えれば唐突で理不尽なものになってしまうかもしれない。しかし一宇の視点から過去と現在を丁寧に描写した本作では、まさにこうなるしかなかったと納得せざるをえない内容になってしまっているから凄まじい。
ストーリーの強烈さはもちろんだがSF風な戒獣の設定も非常に凝っていて、色んな意味で読み応えのある一作だ!
(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)
自分を犠牲にしようとする魔法少女、このアイディアだけを見るとそこまで珍しくないかもしれない。
しかし、本作は「自分を犠牲にしようとする魔法少女を救う」話ではなく、すでに犠牲になってしまったあとの物語として展開する
少女は何のために戦ったのか? 少女を救えなかった少年は残された世界で何を思うのか……? 物語の構成がとても上手い。
また、過去の回想として書かれる魔法少女の戦いは大迫力でこちらも魅力的。
全体を通してすばらしい表現力で、ぐいぐいと読み進めてしまうこと間違いなし。変則的なアイディアを高い筆力で見事にまとめあげている作品。
魔法少女の物語かと思ったら、ある一人の魔法少女を想い続けた少年の物語でした。
その想いは純情というか偏愛というかそれ以上のもので、最初からラストまでの主人公の感情の激流がとにかく圧巻です。
ほどよく厨二で作りこまれた設定と圧倒的文章力と怒涛の展開に、なんというかもう脳を殴られ続けて止まりません。
特に〈現実となり得なかった可能性〉を現実世界に引っさげて乗り込んでくる〈戒獣〉の設定なんかはどストライクです。
そして救いようがない物語のようで救いがあるように見えてしまう物語の積み重ねは、ぜひ皆さんの目で確かめて欲しいです。
長くなりましたが「これぞ小説だ」と言いたいほどに完成度の高い作品でした。 埋もれているのが勿体無すぎる名作なので、ぜひ皆さんにも読んでいただきたい一作です。