今回の「カクヨム金のたまご」のテーマは「変化」です。素数が人間となり、いじめっ子は人魚に改造され、サスペンスみたいな話がいつの間にかラブコメ調に路線変更し、14歳の少年はエヴァへの巨大な感情を引きずりながらアラフォーの男性に成長する……。
超常的な変化から、我々の身の周りに起こる変化まで。さまざまな変化を描いた作品の数々をとくとご覧あれ。

ピックアップ

先の読めない展開が連続の異色ラブコメディ

  • ★★★ Excellent!!!

出来心で行った盗撮がクラスメートの蒼井みぞれに見つかり、志堵瀬ハジメは彼女の奴隷にされてしまう。
最初は大人しく命令に従っていたハジメだが、ある時みぞれの行動が一線を超えた結果、ハジメはつい彼女を殺して山中に埋めてしまう……。

そんな感じにいきなりタイトルを回収して始まる本作だが、作者が選んだジャンルはラブコメ……
いや、この展開でラブコメは無理でしょ……。と思ってしまうが、ここからなんだかんだで奇妙な三角関係が誕生してラブコメらしくなるから面白い。

その「なんだかんだ」って何なんだよと言われれば、それはネタバレにもなるので詳しくは書けないのだが、本作は話が進むにつれて予想もつかないイベントが次々に発生し、さらにヒロインたちの意外な行動によって読者も主人公もとことん翻弄される。

どちらかというとラブコメよりも、ミステリーやSF、あるいはホラーといった側面の強い作品なのだが、一つのジャンルに縛られない多面的な魅力を持つ作品だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

23年前の僕らは胸をいためて「エヴァンゲリオン」なんて観てた

  • ★★★ Excellent!!!

『新世紀エヴァンゲリオン』は凄いアニメだった…………というのは今更自分が語る必要もなく誰でも知ってるだろう。
ちょっと調べればエヴァの偉大さを伝えるデータがいくらでも転がっている。

しかしそれらはあくまで知識であり、そうしたデータを読んだところで、当時の異様な空気はなかなか実感するのは難しい。
今となってはもう20年以上も昔の話だ。リアルタイムで観ていた世代も当時の記憶は薄れかけているだろう。
そんな今だからこそあの頃の熱さの一端を感じ取れる、このエッセイをオススメしたい。

作者のハイロック氏はエヴァ放送時、ちょうど主人公のシンジくんと同じ14才。
人生で一番多感な時期にエヴァと出会った彼が、どのような衝撃を受け、どのように成長し、どのようにしてエヴァを許せなくなったかが、あの頃の中学生の視点からたっぷり書かれている。

前半部分は当時の記憶で書いている部分もあるので真偽が怪しい部分もあるし、また他のエヴァファンとは意見の割れそうな解釈もある。
だがそれもご愛嬌。というか、そこがいいのである。
ここで重要なのは正しい歴史ではなくて、一人の人間がエヴァをどう見て、どう受け取ったか、そしてどう表現するかなのだ!

あの頃エヴァを観ていたは懐かしい気持ちに、「エヴァ? 生まれる前にやってたアニメじゃん」という若者は新鮮な感覚に浸れるであろうエッセイだ。
あと少し先の話ですけど、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されたら、是非こんな感じで感想を書いてもらいたいですね!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

『2』『7』『83』……この数字からどんなキャラが思い浮かぶ?

  • ★★★ Excellent!!!

お船が女の子になったり、競走馬が女の子になったりと巷のゲームやアニメで根強い人気を誇る擬人化もの。
本作もそうした擬人化ものの一つなのだが、本作で擬人化されているのは何と数字、それも素数だ!

舞台となるのは、1から100までの間に存在する素数だけが集められた特殊なクラス。
しかし、その日クラスにいたのは26人。本来いるべきは25人、つまりこの中に素数ではない数字が紛れ込んでいる!? 
果たして、選ばれし素数の中に潜む『ニセ素数』は誰なのか?

そんな擬人化ものにして、ミステリーでもあるのが本作品。
いくらなんでも数を擬人化するのは無理があるのでは? という気がするが本作は素数にまつわるちょっとした薀蓄を紹介しながら、その薀蓄を絡めて無味乾燥な数字にそれらしいキャラを当てはめているから面白い。『セクシー素数』なんて単語初めて知ったよ……。

また犯人当てでも「そもそも素数とは何なのか」という初歩の初歩から始めて、しっかり理詰めで犯人を追いつめていくので、数学が苦手な人も安心。
馬鹿馬鹿しいようでいて、擬人化ものの奥深さを味わえる作品だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

人魚になった貴方だから、今の私を見せたい

  • ★★★ Excellent!!!

物語の舞台となるのはヒューマン・アニマル加工技術によって、人間を動物のように改造できるようになった世界。
そんな世界で、中学生時代に自分を支配していた少女が人魚になったという噂を聞いた「私」は、イケメン婚約者を連れて水族館へ様子を見に行く……。

当たり前に人権が奪われるディストピアな世界観、あらゆるボキャブラリーを駆使して「私」を「醜いし、きもちわるい」と非難する当時の彼女、その影響で歪んでしまった「私」の語り、という3つのグロテスクな要素が見事に調和して、何とも言えない独特な魅力を醸し出している。

『優雅な生活が最高の復讐である』という言葉もあるが、中学生のころからすっかり様変わりした「私」は人魚となった彼女を観て何を思うのか、そして彼女の目に今の「私」はどう映るのか。
人と人魚、この再開が二人にもたらす結末とは?

短くシンプルな話だからこそ、何とも言えない読後感を残す一作だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)