WEB小説のタイトルは長いとよく言われます。実際に統計を出したわけでもないので、長いタイトルの小説がどれぐらい多いのかはわかりませんが、頻繁に話題になるぐらいですから、長いタイトルというのはそれだけ読者の印象に残りやすい効果はあるのではないでしょうか。書店に並べられている書籍と違いカバーも帯もないWEB小説では、わかりやすいタイトルをつけて読者の興味を惹くというのも一つの戦略でしょう。ですが、あえて今回はタイトルが「漢字四文字」の作品をピックアップ(サブタイトルは除く)! 世間の風潮に抗うが如くシンプルな題名に込められたその内容や如何に!

ピックアップ

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寝苦しい夏の夜にぴったりな怪談集

  • ★★★ Excellent!!!

夜のコンビニ、留守番中の自宅、バイト先の更衣室、駅のホーム、マンションのエレベーター……そんな日常の延長上の場所で遭遇した奇妙な体験談を集めた短編集。

体験談という形式上、怪異を目撃した語り手が死んだり殺されたりするという派手な展開はないものの、淡々と語られる恐怖体験の数々は、我々が日常で訪れる場所が舞台ということもあって後を引く怖さを残します。

また一つひとつの話が独立しているようでいて、作者の追記によれば本作は何らかの仕掛けが仕込まれているらしく、作品に隠されている「何か」の正体を探しながら読んでみるのも面白いかもしれませんが、もちろん何も考えずに普通に読んでも充分怖さを味わうことができます。

ここ最近は暑い日が続きなかなか寝苦しい日も多く、そんなときは寝る前に本作を数編読んでみると涼しい心地になれるでしょう。

もっとも今度は違う理由で眠れなくなるかもしれませんが……。

(四字熟語っぽいタイトル四選/文=柿崎 憲)

中学生男子憧れの職業ナンバー1! “軍師”の実態に迫る!

  • ★★★ Excellent!!!

謎の作者存在X(どこかで聞いたようなフレーズだ)による、軍師を主人公にした小説がこちら。

タイトルにもなっている通り、本作の主人公となるのは三国志などでもおなじみの軍師。そして軍師を主人公にして語られるのは軍師というのがどれだけ嫌な奴かということだ。知略を尽くしてあの手この手で敵を追い落とす軍師。非常時には大変役に立つ存在だが戦争が終わればもうそれはただの危険人物にすぎない。

そんな真実に気付いた天朝の皇帝は軍師を徹底的に抹殺していく。
いくらなんでも天朝ひどすぎるんじゃないかな……。しかし一人の軍師、本作の主人公・石峻は北方の異民族のところに逃げ込み何とか生き延びる。
そして彼は誓う。「辛い。本当に辛い。生きるためには、仕方がないんだ。だから、祖国を焼こうと思う。」やっぱ軍師ってろくでもねーわ。

かくして始まる石峻の復讐劇。自分の目的のために都市を焼き払い、流言を用いて住民に内乱を起こさせ、もはややりたい放題。
だが、そんな彼を仕留めるべく、もう一人のワケあり軍師が姿を見せる。
一人いるだけでも大変な軍師が、二人も戦場に現れ戦を操ろうとしたらどうなるのか、そして、そんな軍師の二人の間に立たされる、大将軍の胃はどうなってしまうのか?

軍師の二人の知略が化学反応を起こした結果、思いも寄らぬ方向に突き進んでいく戦と物語の様子は必見です!

(四字熟語っぽいタイトル四選/文=柿崎 憲)

誰もが知っている詩人李白の誰も知らなかった冒険がここに!

  • ★★★ Excellent!!!

中国唐代の詩人にして、「詩仙」と称される李白。彼が遺した詩は教科書にも載っていたりするので、読んだことのある人も多いでしょう。
本作はその李白が主人公なのですが、おそらく我々がイメージする李白を大きく覆すこと間違いなし!

本作で描かれる李白はまだ少年と言っていい年齢。それなのに酒と碁が大好きで、なぜかジジイ口調で喋り、目的のためなら向う見ずに突進し、気に入らないことがあればすぐ口答えをする。
そしてこの李白、口が達者なら腕も達者で、己の前に立ちふさがる悪党が居ようものなら並外れた拳法で成敗する。
中国の武侠小説を彷彿とさせる本格的な格闘描写は必見です。

一見型外れのようでいながら、時折ストーリーの流れに沿って実際の李白が詠んだ詩を披露するのも心憎い。
また、名家の落ちこぼれや、自称美少女侠客の少女、寺で暮らす西域出身の少年、神出鬼没の怪しげな老人など一癖も二癖もある登場人物が次々現れて、彼らを主役としたエピソードが紡がれていき、それらが折り重なって李白を中心とした一つの物語になるという構成もお見事です。

全体を見れば長編ですが、一つ一つのエピソードは短く読みやすいので気になった人は是非是非。

(四字熟語っぽいタイトル四選/文=柿崎 憲)