こんにちは! もうすぐ年に一度のクリスマスだね! みんなはもうクリスマスの予定は決まったかな!? 友人たちと遊びに行ったり、家族でパーティを開いたり、それとも彼氏や彼女とのデートだったりして!? ちなみにおじさんには何の予定もないよ……。けどもうすぐクリスマスだからっていうカクヨム編集部からのお達しで、今回はクリスマスを題材にした小説を選んだんだ……。編集部はもっと甘々なラブストーリーとかを選んでほしかったんだろうけど、おじさん、今だけはそういう話読みたくないから……あと悲しい歌も聞きたくない。そんなわけでクリスマス前後が舞台のちょっと変わった小説をチョイスしてみたから、おじさんみたいにクリスマスに何の予定のない人は読んでいったらいいんじゃないかな……。タイトルに「死」とか「デッド」なんて文字が入ってる作品が多いのはただの偶然だよ……。

ピックアップ

この中に幽霊がいる!? ペンションを騒がす一夜の大論争

  • ★★★ Excellent!!!

物語の舞台となるのは、クリスマス当日に嵐が直撃した山奥のペンション。その日集まったのは、偏屈な老人、破局寸前のカップル、陰気な女性、常識知らずの大学生……
そんな面子が顔を突き合わせても会話が盛り上がるわけない。しかし、ペンション近くの橋で車が川に転落したというニュースが流れ、さらに客の一人が「もしかしたらこの中の誰か――もう、死んでたりして」と言い出したことで事態は一変。
かくして集まった客たちの間で、この場にいる人間のうち誰が幽霊なのかを決める、不毛な論争が始まってしまうのだ……。

最初の方はちゃんと真面目に推理で幽霊を捜そうとしていたのに、気が付けば投票で決めようとしたり、自分こそが幽霊だと立候補者が現れたりして幽霊探しは二転三転。さらに話が進むにつれて、それぞれが抱える事情が明らかになり事態は思わぬ方向へ。

性格も年齢もバラバラな個性豊かな客たちが「誰が幽霊なのか」を巡って、変な理屈をこねながら口論する様子は非常に小気味よく、一気に物語の中へ引きつけられ、気が付けばクリスマスならではの味わい深いラストまで一気に持ってかれる。

(クリスマスぼっちが楽しく過ごすための4選/文=柿崎 憲)

ゾンビとなった女子高生の聖なる一夜

  • ★★★ Excellent!!!

ドラム缶に詰められて山の奥に埋められた女子高生・クリス!
しかし、その日はクリスマスイヴ! 神の奇蹟か、悪魔の祝福か! クリスはゾンビと化して甦った! 
目覚めたクリスは自分を殺した男の下へ走る! 途中タクシーに轢かれたりもするけど、そのタクシーに乗って男の下へ向かう! そして無事男の下に到着した彼女が目撃したのは、他の女子高生ゾンビに襲われている男の姿だった……!

適当な単語の末尾に「オブ・ザ・デッド」をつければ自然と物語ができるという説が世の中にはありますが(嘘だと思った君は「オブ・ザ・デッド」でカクヨム内を検索だ!)、本作もそんな「オブ・ザ・デッド」系、すなわちゾンビものであります。

なぜ彼女がゾンビになったのか、そしてゾンビに襲われている男の正体は何なのか……は本編を読んでもらうとして、ゾンビになってもめげることなく、目標めがけて一直線で突き進むクリスちゃんの姿には元気がもらえること間違いなし。
そして、こんな変な話なのに、なぜか読了後に心地よい余韻が残るから素敵。

(クリスマスぼっちが楽しく過ごすための4選/文=柿崎 憲)

特別だけど特別じゃない、ありふれた青春の一ページ

  • ★★★ Excellent!!!

女子高生の来栖さんと、男子高校生の増田くん。二人そろってクリスマス。
そんなダジャレはおいといて、舞台となるのはクリスマスを目前に控えた放課後の教室。そして話は二人の会話をメインに進んでいきます。

その肝心の会話の内容は、来栖さんの身体の秘密にかかわること…………
ぶっちゃけると、来栖さんの背中に生えている羽に関する話です。

自分の秘密がバレているとは思いもよらず、慌てふためく来栖さん。
頭の中は超高速で回転するけれど、そのほとんどが空回り。ほとんどの発言がしどろもどろに。
そんな来栖さんのことを気遣いながらも、会話の主導権を握ってちょっとずつ質問を続ける増田くん。

来栖さんの特殊なデリケートな事情に対して、自分のコンプレックスについて解説しながら誰にでもあるようなことと言い放つ増田くんは実に男前。
この二人の距離感が実にいいんですよ。

特別なことを描いているのに、そこに流れる空気はきっと誰もが共感できる普遍的なもののはず。短編ながらも、会話の端々やモノローグから際立った作者の腕前が感じられる、素敵な一作です。

(クリスマスぼっちが楽しく過ごすための4選/文=柿崎 憲)

死神VS女検事の命を賭けたバトルが始まる!

  • ★★★ Excellent!!!

通り魔に襲われて、瀕死の重傷を負った女検事の伴陽子。
意識不明のまま病院のベッドに横たわっていた彼女だったが、そこへ死神を名乗る怪しげな男が現れる。
その男は特別な魂を持つ彼女に生きるチャンスを与えると言う。

髪をクリスマスカラーに染めた死神・シャール(自称キムタク似)は、饒舌で一見気さくに見えるが、彼が陽子に突き付けた甦る条件はほぼ達成不可能なもの。
しかもいくつかの偶然が重なり、陽子に甦りのチャンスが訪れるとあらゆる手段と屁理屈でそれを邪魔しようとする。

そうなってからが物語は本番。陽子が甦らないようにあらゆる詭弁を弄する狡猾な死神と、その論理の粗を見つけ猛烈に追及する敏腕検事。
命と魂を賭けた勝負の軍配はどちらに上がるのか?

互いの発言の穴を突いた論理合戦と、クリスマスならではの奇蹟が組み合わさる勝負の結末は絶品です。

(クリスマスぼっちが楽しく過ごすための4選/文=柿崎 憲)