特にテーマを設定して作品渉猟をしているわけではないので、取り上げる作品の間に共通性を感じられたときにはちょっとした嬉しさがある。今回あとづけで感じられたテーマは「物語」だ。たとえば"異世界転生"は典型的な物語だが、なぜそう言えるかといえば、これが流行によって一種のテンプレと化したからだ。これに限らず、勧善懲悪から宝探しまで、予定調和とも言える物語の基本構造は、もちろんそれを媒介に様々な形での差異化を試せるとはいえ、その差異化自体が予定の中に組み込まれがちだし、さらに言うならば、そもそも予定通りであることによってエンターテインメントとして成立していることの方が多いはずである。今回の作品たちは、そういった予定調和自体をある種題材にしたものが多く、お約束に乗っ取るか、お約束を逆手に取るかの違いはあれども、そういった問題意識自体がカクヨム内の作品にもちらほら見受けられるのは興味深いことであった。

ピックアップ

いったん"物語"に襲われたら、あなたも"役割"から逃げられない

  • ★★★ Excellent!!!

「誠に残念な報告になるのだが、【異世界転生】などといった、冒険心を掻き立てられるような展開にはならんのだ」と述べるのは、自称"物語の化身"である亜羅だ。
というのも、主人公が序盤で死んだなら、その後に転生からの異世界での大活躍を想像するのはもはや自然だと言わざるを得ないからだ。

こういう言及はなかばメタフィクション的である。むろん「異世界転生」だけが「物語」というわけではない。
しかし物語とはそもそも何なのか。

よく言われるのは、それは内包した人物たちをある説話論的磁場に落とし込む制度だということだ。
フィクションにおいては構造だが、たとえばスポーツや政治などで「ドラマが生まれた」などというときには、「物語」は生成されるものとして扱われ、何者でもなかった現在を生きる人々が主要人物としての役割を担う様子が示される。

本作ではひとまず、宇治山明音らが「赤ずきん」の「物語」に襲われ、それゆえに強制的に役割を担わされる様子が描かれるが、そこにおいて人物がキャラクター化するせめぎ合いの様子は一つの注目点だろう。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

楽園の外でこそ、人は孤独を避けようとするもののはずだが――。

  • ★★★ Excellent!!!

悪天候で潰れた合コンの代わりに、男どもは焼肉食い放題の店にやってきた。
アラサーアラフォーの男たちが集まって、結婚への焦りや愚痴を述べつつ、最終的にはうっかりまだ見ぬ合コン相手たちを「どうせアラサーとか、今まで結婚できなくて残った女達だろう?」などと言ってディスってしまった――がゆえの報いを受けるところはショートショートらしい生真面目さである。

だが本当に喜劇的なのは、現状を打破すべく合コンをセッティングしたのに、天候という予期せぬ事態によって頓挫させられ、そのことを「世の中、結婚と子供が全てじゃないのだ。俺達は祖先を残せないラストサムライになればいい」と述べてしまうような精神性である。

彼らは合コン相手を失ってしまったことを「失楽園」だと思っているが、実際にはまだ楽園にいる。
彼らはラストサムライでいいと言いながら、実は自分一人でラストサムライになるわけではないと思っているのであり、本当の「楽園追放」はこれから起きるのだが、それを思うと本作はちょっとしたホラーである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

突如始まる恋人"ごっこ"は、普通の恋愛よりむしろ濃厚だった

  • ★★★ Excellent!!!

本作はラブコメジャンルの作品だが、同時にミステリ的な側面もある。

主人公の八嶋は高二の新学期初日、いきなり面識のない渡辺結依と付き合うことになる。
結依の従姉妹で八嶋のクラスの担任でもある槙原美樹が強制的に付き合わせたからだ。
だがなぜそんなことをさせるのか。そして、なぜ結依もこの唐突な状況に順応し、のっけから八嶋にキスをするなどということができてしまうのか。

言葉だけの答え合わせをすれば、それは槙原がとてもおせっかいで、そして美樹は恋愛というものを知らず、その代わり自分のことを案じる槙原のことを信じているからだ、ということになる。
こういう展開はいかにもフィクションらしく作り物めいて見えるが、しかし、かような類の不意を打たれる経験こそが恋愛の本質ではなかったか? 

そうして見ると、一種の「恋人ごっこ」にすぎないはずの八嶋と結依の様子が、むしろ普通の恋愛ものよりも遥かに濃厚で胸焼け必至のいちゃつきを展開してくるというところにも、むしろ自然さが感じられてくるというものである。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

嗚呼、かくも楽しい(厳しい)投稿生活

  • ★★★ Excellent!!!

言うまでもないことだが、小説に関わる人でいちばん多いのは読者である。
投稿者はそこから大きく数を減らし、受賞者はさらに少なくなる。
デビューして、小説を生涯の仕事として生きることができた人となると本当に数えられるくらいになってしまうだろう。

だからこそ小説家のライフスタイルはレアという点で商品性があるのだが、ゆえに見落とされがちなのが投稿者のライフスタイルである。
受賞やベストセラーといったわかりやすいゴールがないので作品化しにくいが、ふと気づくと、ネット上の投稿サイトの隆盛により、読者の多くが投稿者であるような世界がさらに前景化してきた。

他ならぬカクヨムがまさにその一つなわけだが、小説というのは読んでも面白いが書いても面白いものである。
ことによっては作品自体よりも書いている様子の方が面白いかも……となるのが皮肉な事態ではあるのだが、本作にはそんな悲喜こもごもが詰まっており、今の時代だからこそ共感できる部分も多くなっているだろう。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

ぼくは、美しく泳ぐ姉たちを繋ぎ止める、愛玩たちの愛弟だった。

  • ★★★ Excellent!!!

ひぐらしの鳴き声が登場するホラー風味の作品と言えばそれだけで期待感を持ってしまう。
たとえばそれは『イリヤの空、UFOの夏』がそうであったし、また表題そのものがずばりである『ひぐらしのなく頃に』も思い出されよう。

本作は6人の「姉」に囲まれた「弟」である「ぼく」の視点から描かれる。といって、田舎を舞台にしたホラーでないところが重要で、実はこの作品の舞台は宇宙船の中であり、「ぼく」と「姉」たちはその中で養殖された観賞用愛玩物、いわば「金魚」のような存在であったのだ。

だがこの作品では、たとえば『GANTZ』がそうであるように、「金魚」たちの反抗が描かれるというわけではない。
ただ、愛玩物として滅びていく姉たちの姿と、それに心を傷め、最終的に宇宙に身投げする「ぼく」の凄惨な生き様が、ある意味で淡々と描かれるだけだ。

だが、その叙情的な筆致には卓越したものがあり、我々はこの作品を自然に読まされる中で、その静かな狂気と悲しみに身を浸してしまう。
さながら金魚鉢に入れられたかのように。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)