ぼくは、美しく泳ぐ姉たちを繋ぎ止める、愛玩たちの愛弟だった。

ひぐらしの鳴き声が登場するホラー風味の作品と言えばそれだけで期待感を持ってしまう。
たとえばそれは『イリヤの空、UFOの夏』がそうであったし、また表題そのものがずばりである『ひぐらしのなく頃に』も思い出されよう。

本作は6人の「姉」に囲まれた「弟」である「ぼく」の視点から描かれる。といって、田舎を舞台にしたホラーでないところが重要で、実はこの作品の舞台は宇宙船の中であり、「ぼく」と「姉」たちはその中で養殖された観賞用愛玩物、いわば「金魚」のような存在であったのだ。

だがこの作品では、たとえば『GANTZ』がそうであるように、「金魚」たちの反抗が描かれるというわけではない。
ただ、愛玩物として滅びていく姉たちの姿と、それに心を傷め、最終的に宇宙に身投げする「ぼく」の凄惨な生き様が、ある意味で淡々と描かれるだけだ。

だが、その叙情的な筆致には卓越したものがあり、我々はこの作品を自然に読まされる中で、その静かな狂気と悲しみに身を浸してしまう。
さながら金魚鉢に入れられたかのように。

(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)

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