◆呪いのパンダ焼き◆

茶房の幽霊店主

第1話 呪いのパンダ焼き。

※(店主と友人たちの日常であった小話です)

※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)


※※※※※


アシスタントのNちゃんは差し入れをよく持ってきてくれるのですが、

この時、中にカスタードの入った【パンダ焼き】を 持参して仕事場へ来ました。


『途中で寄ったスーパーで売っていました!期間限定のお店みたいですよ』


ちょうど休憩に入ったところだったので、お茶を入れて 二人でさっそく食べてみることに。


焼きたてでまだ温かかったのですが、 袋詰めにされた後、上から押し込まれたらしく、 袋の底で何個かは変形していました。


『こわっ!これ見てくださいよ!怖すぎません?』

『形は変わっても味は一緒でしょう』

『パンダ焼きはかわいさが正義じゃないですか』

『じゃあ、その怖いパンダ焼きの方を食べるわ』


ふと『期間限定なら写真でも撮っておこう』と思い ムンクの叫びのようなパンダ焼きを携帯で撮影し、カスタード入りのカステラをいただきました。


その日、友人のKさんと情報交換をしていたのですが、『お昼に何を食べたか』の話題に脱線。


Kさんは前も補足した民俗学に詳しい方で、調べ物や仕事に集中し始めると

食事も取らず部屋へ引きこもってしまいます。


そんな人が『何を食べたか』と食べ物に意識が向くのがめずらしかったので、おやつに食べた 例のパンダ焼きを添付して携帯へ送信しました。


Kさん:怖くないですか、焼き菓子なのに表情が。

店主:焦げ目のせいか影なのか、迫力のあるうらめしそうな表情ですね。


何度か携帯でやり取りをして本題へ戻り、その日の話は終了しました。


※※※※※


それから数日後、夜にKさんから電話がかかってきました。


『店主、大変なことになりました』

『え。何か動きがありましたか?』


情報交換していたので、新たな詳細が分かったのか。

もしくは突き止められない事態が起こったのか。


『店主が添付していた【パンダ焼き】の画像。削除実行したのに、消えないんです』

『……うん……?パンダ焼きですか』


一瞬、訳が分からなかったのですが、Kさんが 店主の食べたおやつの画像の話をしていると理解しました。


『削除防止ロックとか、かかっていないですか?』

『ロックの確認もしましたが、かかっていませんでした』


操作を間違えているのか?

何度か削除実行をしてみたようなのですが、やはり消去できません。


『それは……。申し訳ありません。あまり大きな画像では ないので、メモリを圧迫するほどではないかと』


解決策も思い浮かばず戸惑っていると 沈黙の後、Kさんが言いました。


『店主、この画像に何か込めました?呪いとか』

『は?いいえ。それ、ただのおやつの画像ですよ』

『心霊写真のデータが消せなくなるってことはあるでしょう。店主ならできるんじゃないかって』


※※※※※


とんちんかん過ぎて頭痛がしてきました。


Kさんは職業柄(公務員)オカルト全般を鵜呑みにする人ではありません。


隠された真実には必ず【要因】があると考え、趣味に偏りはあるものの、多角的に物事を見られる人です。


ですが、店主に関しては別物と考えているのか。

なんだかそれも暴論すぎだと思うのですが。


『落ち着いてください。 Kさんと店主は長く良好な関係を築いてきました。今後も信頼できる友達だと思っています。 仮に店主が“呪い”の知識があったとして、 それをKさんに実行するでしょうか?』

『……しないと思います……』


『知っているのと実行するのは別です。少なくとも正式な“呪い”は、とんでもないコストと気の遠くなる長い時間がかかるのは、専門であるKさんが一番ご存じでしょう?』

『そう、ですよね。すみません、取り乱してしまって』


露店の【パンダ焼き】が民俗学・民間呪術のマニアを戦慄させることになろうとは、誰が想像できたでしょう。


『自分が店主に嫌われるようなことをしてしまい、報いとして【パンダ焼き】の画像を送ってきたのかと 勘違いしていました』


『どんな想像ですか!?言いたいことがあったら、ちゃんと面と向かって言いますよ!』


そんなものをおやつに食べたのなら 、店主はとっくに呪われているはずです。


念のため好奇心でコピーはしないよう注意(増殖防止)本人も見ないようにすると言ったので、電話を切りました。


送信中のエラーか、使用したアプリのバグでたまたま 【パンダ焼き】の画像

だけが削除できないデータとして 残ってしまったのでしょうが……。


後の数年、Kさんが携帯電話をiPhoneに買い換えるまで、【パンダ焼き】の画像はフォルダに居座り続けていたそうです。


※※※※※


この【呪いのパンダ焼き】。

露店のカステラ焼きを見かけるたびに思い出すのですが、おやつの画像が受け取り方で呪物とされてしまった事例。


半分笑いごとで終わりましたが、物の見え方やとらえ方が

人によっては大きく違っているのだと実感しました。


自分の考えが他人の考えと必ずしも一致はしない。

あなたがしているその撮影、大丈夫ですか?

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◆呪いのパンダ焼き◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom

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