無価値な女に祝福を!

 カツンカツン。

 今にも折れそうなピンヒールを音を立てながら歩く姿はお世辞にも立てば牡丹とは言えなかった。

 自覚はある。どんなに着飾っても私は美しくはなれないのだ。

 頑張って大手化粧品会社の営業になれたが、どうして受かったのか未だに分からない。裏方の事務だったらここまで惨めな思いはしなかっただろうか、栓無いことを考えてしまう。

 落ち込んでいるせいなのか、タイミング悪く赤信号で立ち止まってしまうと、さらに悪い方に考えが向いてしまう。

 向かいの交差点の暗い蛍光灯の下に、キラリと赤い光を見つけた。

 何だろう?信号が青になり、渡り切ったところで、腰を屈めた。

 拾い上げたのは、赤い宝石が輝くペンダントだった。

 あまりの美しさに声を出すのすら忘れて、ペンダントに魅入ってしまった。

 声を失うとは、こういうことを言うのだろう。とにかく綺麗で身動きが取れなくなってしまった。

 うっとりと見ていると、チェーンの変色が気になった。でもそんな変色なんて屁でもない、ペンダントトップの赤い宝石は輝いていた。

 なぜだか、そのペンダントを付けたくなった。

 普段なら落とし物はハンカチだって交番に届けるのに、どうしてだか、今日だけは届けようという気にならなかった。

 キョロリと周りに人がいないことを確認し、ペンダントを付けてみた。

 胸元に赤い宝石があることがとても誇らしく思えた。そっと宝石に手を当て、笑みを浮かべた。


 ぱっと目の前が明るくなった。


 妙に首元が寒い気がする。

 ぐるぐるぐるぐる眩暈が酷い。

 一呼吸ののち暗転。

 ぱちりと瞬きひとつ。


 目の前にダークブルーのツーピースを着た身体が見えた。

 首がない。

 あれ?あの服は今日私が着ていた服と同じだ。

 あぁ…そうか。

 首から大量の真っ赤な鮮血が噴出しているのを見て、自分の首が飛んだことを唐突に理解した。


 付けた赤いペンダントが見当たらない。どうして?あのペンダントがないどうして?

 消えゆく意識の中、ただあのペンダントのことが気がかりだった。

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