愛用のカメラ

七乃はふと

愛用のカメラ

 俺の先輩で写真部の部長がいたんだ。

 中古で買ったと言う外国製のカメラを恋人のように大事に扱ってたな。

 そんな先輩が撮影で出掛けた時事故に遭った。

 前方不注意の車に轢かれて、一時期意識不明だったんだけど、意識を取り戻して開口一番なんて言ったところで思う?

 カメラ何処って両手を動かして探すんだ。俺も部員も親も何処にあるか分からなくてさ。

 部長また意識失って、一瞬心臓が止まる大騒ぎ。蘇生作業初めて見たけど戦場みたいだった。

 意識を取り戻した先輩は、ベッドから一歩も動かなくなっちゃってさ。お通夜みたいな雰囲気でカメラカメラと呟くから、俺見舞いに行かなくなったんだ。

 一週間後だったかな。写真部の友達が部長の近況を嬉しそうに教えてくれたよ。

 なんとあの後、警察の人がカメラを届けてくれたらしいんだ。

 ずっと寝たきりだった部長。勢いよく飛び起きて頬擦りしながら喜んでたそうだよ。


 そう、ここからが本題だ。


 写真部の友達から知らされたのは部長の死だ。怪我が悪化したのかと思ったら、病院の外で息を引き取っていたんだって。

 両親や部員達は、本人から事故で行けなかった場所へ行きたいと聞いていたから、向かったら、案の定倒れていたってさ。

 カメラには部長が取ったと思われる風景写真が写されていたらしい。

 俺はその話聞いて、ゾッと、したね。

 

 だって部長は事故で、両目を失っていたんだから。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛用のカメラ 七乃はふと @hahuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画