第7話
二十時過ぎ。ラフな格好に着替えた俺は、車でホストクラブへと向かった。
「こんばんは」内勤は俺の顔を見るなり、緊張と綻びが混ざった表情を浮かべる。
「イッセイ君、いる?」
「はい、どうぞ」
案内された席は、聴取に使用した所と同じだった。偶然なのか故意なのか。そこにやって来たイッセイ。軽く微笑み、「ご指名ありがとうございます」と言って、隣に腰かける。
少し会話をして、イッセイが注いだノンアルコール飲料、貢ぎ品のシャンパンで乾杯する。
「亘さん、このあと食事行きません? 日頃の感謝も込めて、今日はいつもよりサービスしますよ」
「やけに、ご機嫌だな」
「ここだけの話、実は僕、社長の座に就けるかもしれなくて」
「えっ、本当に?」
「はい。今回の件で飛んじゃった人もいるし、セイジュさんに爆弾握られたままの人もいる。他にも、枕が目的でしかない人もいるから、この中だと僕が一番まともみたいで」
弾む言葉から、嬉しさが犇々と伝わる。
「でも、皆が知らないだけで、僕だって色々やってるんだよ」
「そうなのか」
「そのことも含めて、亘さんに知って欲しいことがあるから。付き合ってくれる?」
店の奥から、シャンパンコールの声が聞こえる。頑張って声を張っているようだ。
「いいけど、どんな話?」
「詳しくは言えないけど、亘さんは刑事だから知ってるはずだよ。白井宇月っていう刑事」
鼓動が早くなる。動揺を見せないよう、トーンを下げて言う。「どうして君がその名前を。年齢も出身地も違うだろ」と。
「亘さんもそうだけど、このお店、警察官の人達が常連でさ。しかも、上層部? の人達も来るんだよ。知ってた?」
俺は控えめに首を振る。するとイッセイはふふふと笑って、人差し指を揺らした。
「じゃあ尚更、見かけだけで判断しちゃ駄目だよ。僕だって人間なんだもん。好きになる相手がいるように、憎む相手も少なからずいるって」
End.
ダークスーツを着た猫 成城諄亮 @Na71ru51ki
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