良い意味での『掴みどころのなさ』が、適度な緊張感と神秘性を作品に与えており、最初の一文から引き込まれます。しかしその引き込み方も、決して強引にはならず、ホラーでありながらもむしろ心地よい感覚で進行します。
物語の中心は、バーの中での会話。主人公がある男性にインタビューを試みます。このモノローグに前後して、二人が手にしたウィスキーの描写があるのですが、これがまたお洒落なんです。
バーのマスターやお店の内装も、細かい描写はないのにとても雰囲気があり、写実的ながら文章でしかできないことが為されている、という印象を受けました。こうした一種の矛盾を内包した作品って、やっぱり人の心に刺さるよなあとしみじみ思います。
素敵な掌編を、ありがとうございました<(_ _)>
バーの中で、人組の男性客がウイスキーを飲んでいます。
片方は、オカルトの記事を書くことを生業としているライターを名乗っております。
もう一人は、そんな彼から取材を受けている不思議な体験をした……とおっしゃる方。
男性の話に出てくる場所は、おそらく……埋立地、もしくは港が近い場所なんじゃないでしょうか?
そう言った場所には人間のために整備された道が少なく、
横断歩道もなければ歩道橋もない。歩道があるだけありがたく思えと言われている感じのする、車ばかりの道路ばかりなものにございます。
そこに新しくできは歩道橋を、渡ろうとしたときに……
非常におっかない目に遭われたそうで……?
物語の肝、というかホラーな部分は、実は彼の話を聞き終えた『後』にございます。
そこで色々なことがわかるのですがー……なるほど。
私がこの物語のタイトルを思い出したのは、グラスの氷が溶けた後にございました。
横断歩道は、ちゃんと右見て左見て、そして……
悲しい事件が起きたかどうかを確認してから渡りましょう。
ご一読を。
「怪談×バー」というお洒落な雰囲気。このポップさとゾワっと来る感じが同居する感じがなんといっても良いです。
オカルトライターをする主人公は行きつけのバーで「常連客」のOさんと対話する。Oさんはどうやら「とっておきの話」を持っているらしく……。
そしてOさんの話が始まる。彼が「とある信号機の前」で体験したという話。
道路、というのは日常的に目にするものでもある一方、交通事故などによってふとした瞬間に人の命が奪われる場所でもある。
無機質なアスファルトや信号機の灯り。そんな風景の中に混ざり込む、「不穏な何か」の気配。
Oさんの語る「怪談」。信号に長く待たされる経験。そして、信号が変わった後の出来事。それはとても身近なもので、自分がその現場にいる様子なども鮮明にイメージすることができます。
オチに到達するまでは、「ああ、自分も前にこういうのでヒヤっとする経験あった」とか考えながら読みました。
でも、そこから先に「本領発揮」な瞬間が待っています。
なるほどなあ、としみじみ感嘆しつつ、そこからも更に油断ならない展開が。
現代は「怪談師」たちが集まるバーが六本木などにはあるのだとか。村上ロック氏などの名のある怪談師がそこに集まって怪談を語り合うという文化もあるという。そうしたバーでの怪談をYOUTUBEなどで視聴したことのある人も少なくはないかもしれません。
バーの静謐感のある大人な雰囲気。そこで語られる怪談。お洒落な感じと不穏な感じが綺麗にブレンドされ、一種独特な「ホラー」の風味に仕上がる。
ちょっとハイソで大人な怪談。他にはない味わいを楽しむことができます。