外伝1《裏》 真紀、愛しい天邪鬼へ。
『あんたのものは、私のもの。私のものは私のもの』
偉そうにこう言ってやると、馨はいつもイラっとして、何かとツッコミを入れてくる。
お前はジャイアンか、とか。
まだ結婚してない。してないけど離婚だ。
お前のATMになる気はない! とかね。パターンいろいろ。
だけど私、茨木真紀は、前世の夫に繰り返しそう言うようになる。
それは天邪鬼な馨に向けた、言霊のようなものだ。
幼稚園で出会い、私をかばって怪我をした彼を見て、真っ先にある考えに至った。
彼は今世も、きっと私を守ろうとする。
私に、自分の何もかもを与えようとする。
それじゃダメだ。それじゃあ、前世と同じになる。
私は混乱して、思わず彼から逃げてしまった。
隠れて身を潜めて、今の自分の姿が、あの人にどう映っているのか心配もなった。
一度醜いものに堕ちた、私……
ずっと会いたかった。
でも、私はあの人のそばに、いてはいけないのではないだろうか。
『……見つけた』
しかしあの人は、私をちゃんと、見つけてくれた。
小さな男の子だったけれど、瞳の奥に灯る強い光は、今も眩い。
だからこそ、改めて決意した。
今世こそ、守られるばかりの、あの人を失ってばかりの、弱い私ではダメだ。
彼の側にいたいのなら、対等に隣り合って、二人三脚しながら、それでも幸せを求めて歩んでいかなければ。
時々転んだって、喧嘩したっていいの。
二人三脚は、一人では決してできないでしょう。
どちらかが置いてけぼりになったり、犠牲になるようなことがあっては、ダメなのだ。
だからと言って、よそよそしくなったり、〝馨〟を拒否し遠ざけるようなことをすれば、きっと彼は深く傷つく。
必要とされない、居場所がない。
そういうことを、酷く恐れるひとだもの。
だから、拒否しない。
否定しない。
全力であなたを肯定し、欲する意思を唱え続ける。
ただあなたは天邪鬼だから、私が傲慢な態度で「あんたのものは私のもの」って言うと、逆に心配になって、言葉では拒否しようとする。
私の行き過ぎた言動や暴走を、止めようとするでしょう。
それでいいの。
そうやってバランスをとらないと、あなたは私に、自分の何もかもをくれてしまおうとするから。自分の、命すら。
叱られるのは私でいいわ。
それはそれで嬉しいし、あなたの愛情は十分に伝わる。
私は、馨の側にいられるだけで幸せだ。
あなたの痛みも、悲しみも、失ったものすら全て、私のもの。
さあ。大事なものを、共に取り戻してゆきましょう。
あなたに命を救われた千年前から、
本当はもう、私の全ても、あなたのものなのだから。
浅草鬼嫁日記~あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。~/友麻碧 富士見L文庫 @lbunko
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