銀河の最果ての惑星観測基地に暮らす1人の老紳士と女性。外部との交流はと言えば、年に1度きり立ち寄る銀河鉄道と、投函しても届くかどうかわからない「宇宙の缶詰」のみ。
楽園のような、流刑地のような惑星で穏やかに暮らす2人の元に、女生との因縁浅からぬ一人の青年が訪ねてきて――。
静謐な温度の文章と世界の描写を読んで、まず思い浮かべたのは、「銀河鉄道の夜」でした。真っ白な鵲は、地に降りる瞬間に足を掴まれると、諦めて動かなくなり、とても美味しいお菓子になってしまうのです。
「銀河鉄道の夜」の2人の主人公は、列車に乗って、美しい銀河の様々な地をどんどんと流されてゆきます。それは、自らの意志ではどうしようもない魂の奔流。対して、このお話の2人は観測基地から動きません。自らの意志で、かささぎのいる場所へと留まっています。
流されること。留まること。そして自らの意志で歩むこと。いったい、私たちはどんな道を採ればしあわせになれるのかな、そんな思いが、ふと浮かぶ美しいお話でした。
是非、揺れ動く気持ちの中、2人の観測員と1人の来訪者が選択したことを見届けて下さい。
きっと思うはずです。またやりやがったなこの野郎、と。
宇宙の美しさ。銀河の最果ての静寂。人間の心の複雑さ。
——それらを、高い表現力と繊細な筆致で描き出す、大変美しい作品です。
物語全体を包む静けさは変わらぬまま、幻想的な情景が次々と目の前に立ち上がり、まるで大きなスクリーンで映画を見ているように音を持ち、動き出します。作者の高い表現力は圧倒的です。
そして、次第に深く絡み始める、登場人物たちの心情。穏やかさを湛えつつも次第に激しく盛り上がり、そのクライマックスは息を飲まずにはいられません。
深く余韻を残すラストまでが、透明感を失わず、美しい。
水晶のように高い透明度を持つ、不思議な魅力に溢れたSFの世界。ぜひご堪能ください。
読者によって様々でしょうが、一様に綺麗な情景が瞼に浮かぶと思います。私の場合は、南洋の孤島の砂浜に立って、静かに寄せる波音を聴きながら、オーロラの舞う極夜の星空を見上げる感じ。40年ほど前に、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」がアニメ映画化されましたが、確かその中に白鷺みたいな花が出てくるシーンが有ったと思うんですが、そんな感じ。
そんな幻想的な情景の中で繰り広げられる登場人物の心の揺れもまた繊細で、それでいて、生立ちや年齢を踏まえての自然な流れ方なので、作品の世界にドップリ浸かれます。
短編にはMAX2つが信条なんですが、これは星3つ。
絵の綺麗な漫画家に描いてもらいたい作品です。星野宣之先生みたいな写実派ではなく、もっとファンタジック路線で絵の綺麗な漫画家の先生。
深く深く感銘を受けました。この物語へ贈る賛辞を表す力量がないことに、不甲斐なさを噛みしめてしまいます。
それ程までにこの物語は美しく、面白く、驚きと切なさが両立し、筆舌しがたい読後感を残します。
書物になる物だけが「物語」ではないのだと、この作品を読んで思い知らされました。カクヨムを始めて良かったと心から思い、そして嫉妬を通り越した脱帽を著者に抱き、また自らの活力にもなりました。
作中に散りばめられた伏線とも呼べる技巧は、読中読後、きらりと光り続けます。キャラクター、設定、比喩、対比、すべてにおいて作品を輝かせています。
皆さま、ぜひじっくりとご一読ください。