カクヨムという場に、この作品に出逢えた奇蹟に、感謝を。

 昔、本を読み終わるのが怖かった。次に読み始めるべき本がないとなんだか物寂しくて、物語の世界を閉じてしまうことが、無性に怖かった。
 この作品を読んでいて、久々にそのときの感覚を思い出した。
 読み終わるのが怖い。
 読み終わりたくない。
 ずっと読んでいたい。
 そんな気持ちにさせられた。
 雪車町地蔵さんの文体が、哀愁漂う世界観が、その中にいるくせに強くて、でも同じくらい弱い、キャラクターたちの性格や口調が、堪らなく心地良い。もっと傍にいて欲しいと、そんな甘ったれたことを口走ってしまいそうになるくらい、癖になる。この作品の、虜になる。
 この作品は、フラクタルだ。
 正三角形に逆向きのそれを重ねて六芒星ができるように、またそれを重ねて、重ねて、重ねて、やがて円に近い形が見えてくるように。尖っているのに、綺麗とは言えないものすら織り交ぜているのに、美しい。
「おもしろいか?」と訊かれれば、「おもしろい」と答える他ないが、この作品はそれ以上に、「美しい」のだ。
 この作品に出逢う場となったカクヨムには感謝をしているが、同時に少し、苛立ちを覚えた。
 この作品が無料で読めてしまうなんてこと、あって良いものか、と。
 一読者として、この作品に対価を払えないことを、心苦しく思う。
 是非、ご一読いただきたい。

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