この世界のすべて

作者 月生

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★★★ Excellent!!!

ニュースでは、海外の戦争については淡々と「死者……名」と伝えられていますが、一つの爆弾が何をもたらすか?子どもや若者のささやかな希望が、いとも簡単に引き裂かれる様子が、息苦しくなるような質感で描写されています。

Good!

内戦が激化する中東の片隅で生きる少年とその義弟妹の様子が、少年の目を通して臨場感たっぷりに描かれている。擬音に頼ることなく、視覚情報や振動で丁寧に描写することが、リアリティを与えている。埃っぽさや日差しの熱さを直に感じるようだった。
生きるために他人を犠牲にすることを躊躇わない世界で、弱者である少年たちは搾取され、時に略奪する側に回る。その罪を少年は一心に背負い、それでも弟妹を守るために戦い続ける。そんな思いさえ戦争は容易く踏みにじって行き、抱く希望はことごとく打ち砕かれる。
ラストをどう感じるかはわかれると思うが、僕は、兄のままでいて欲しいと思った。

★★★ Excellent!!!

「一人の命を奪うことで得た缶詰、だがこの食料があれば二人の命が繋げるんだ──」

この価値観を突きつけられて平然としていられる人はいないでしょう。
テーマに、作品に、文章に、非常に魂の篭った作品だと感じました。

まるで『ブラッド・ダイヤモンド』や『ホテル・ルワンダ』といった戦場を舞台にしたシリアスな映画のような緊迫感のあるストーリーに、乾いた砂埃が舞い、肌を焼くような日差しが容赦なく照りつける中東の雰囲気が文章から漂ってくるような小説でした。


あと、私がこの作品を読むきっかけとなった甲野直次さんのレビューが非常に秀逸で、作品の魅力と感想を全て言い表しているのではないかと思うほどです。
こちらもあわせてご一読を。

★★★ Excellent!!!

 2007年のイラク北部、あるイスラム過激派ゲリラの拠点が壊滅しました。
 飛行機事故を生き残り、ゲリラに拾われていたアジア系の少年・ターリックは、人種の違う「弟」パドゥル「妹」アイシャを引き連れて、ゲリラの村から逃げ出します。
 誰も、三人を助けてはくれない。パドゥルとアイシャの明日の命をつなぐため、盗みを繰り返し、必要となれば人の命も奪うターリック。

 いっぽう、赤十字国際委員会に看護師として所属し、イラクで人道支援を行うことになったカナは、あることを聞かされます。
 それは、飛行機のハイジャック事件が起きた際、ひとりだけ生き残った日系人の少年の噂でした。

 騒乱のさなかで身に迫る飢餓、明日への恐怖。
 気の休まらない状況の中でも訪れる、平穏な、三人だけの時間。
 ターリックの視点で描かれる世界は残酷で、それでもパドゥルとアイシャと一緒にいるときだけは幸せで……。
 ターリックの思いが積み重なって迎える十四章まで辿り着けば、冒頭に書いた一文が、決して大げさではないことを分かってもらえるのではないでしょうか。

 背景が背景だけにとっつきにくさを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、誰の思惑も関係なく、ただひたすらに「家族」を守ろうとする少年の話なので、読み始めれば物語に引き込まれます。
 イラクの文化や風土にも適度に触れつつ、前提となる知識は文中できちんと説明されています。特に中東の知識がなくても大丈夫です。
 死者の数だけがクローズアップされる場所で何が起こっているのか、真摯に向かい合って書かれた作品で、多くの方に読んでもらいたいです。