この作品は、まさに迫真の、ノンフィクションに限りなく近いフィクションである――。
そう仮定すると、とても冷静ではいられない気持ちになりました。もちろん僕は、戦争というものを知りません。それでも、これが現実に起こっていることなのだと訴えかける凄まじい気迫、重厚感に押し潰されそうです。
それでも、この作品に出会えたことを後悔したり、嘆き悲しんだりする気持ちはありません。むしろこういう貴重な読書経験をさせていただけたことに、著者様へ心から感謝しております。
文体は極めて淡々と、かつ心地よい速度で進みます。しかし、その一文一文に込められた恐ろしさ、残酷さ、そして一筋の希望(のようなもの)がせめぎ合い、ぐいぐいと惹きこまれます。
文体での表現と、その文章の中に描かれる要素の均衡の取り方は、相互作用を起こして読者の目を離さないでしょう。
その「相互作用」こそ、命の軽々しい扱われ方を印象的にしていると言えるでしょう。また、ちょっとした描写の中に込められた緊張感をもたらすもの(銃器や他者の目線など)を適宜挟んでいるところなど、著者様の確固たる筆力を感じさせます。
まとまりのないレビューで大変恐縮ですが、是非多くの方に読んでいただきたい作品です。
紛争、戦災孤児。この国ではニュース越しにしか知ることが出来ない遠くの出来事ではありますが、まだ各地でくすぶり続けている悲劇ではあります。
確かに存在する問題を取り上げ、かつ克明に描写した本作は、その重さがそのまま作品としての重量感のある骨格として組み上げられています。
その日の糧を得るにさえ流血が伴う。
あるいは世界のどこかで似たような出来事があるのではないかと錯覚するほどに真に迫る苦しさがありますが、多くのものを喪った果てのラストは、同じように、こういった救いがそんな苦しみの中でも起こってほしいという作者さんの願いのように感じられました。
内戦が激化する中東の片隅で生きる少年とその義弟妹の様子が、少年の目を通して臨場感たっぷりに描かれている。擬音に頼ることなく、視覚情報や振動で丁寧に描写することが、リアリティを与えている。埃っぽさや日差しの熱さを直に感じるようだった。
生きるために他人を犠牲にすることを躊躇わない世界で、弱者である少年たちは搾取され、時に略奪する側に回る。その罪を少年は一心に背負い、それでも弟妹を守るために戦い続ける。そんな思いさえ戦争は容易く踏みにじって行き、抱く希望はことごとく打ち砕かれる。
ラストをどう感じるかはわかれると思うが、僕は、兄のままでいて欲しいと思った。
「一人の命を奪うことで得た缶詰、だがこの食料があれば二人の命が繋げるんだ──」
この価値観を突きつけられて平然としていられる人はいないでしょう。
テーマに、作品に、文章に、非常に魂の篭った作品だと感じました。
まるで『ブラッド・ダイヤモンド』や『ホテル・ルワンダ』といった戦場を舞台にしたシリアスな映画のような緊迫感のあるストーリーに、乾いた砂埃が舞い、肌を焼くような日差しが容赦なく照りつける中東の雰囲気が文章から漂ってくるような小説でした。
あと、私がこの作品を読むきっかけとなった甲野直次さんのレビューが非常に秀逸で、作品の魅力と感想を全て言い表しているのではないかと思うほどです。
こちらもあわせてご一読を。