その役の名は……


 テーブルの上に山と積まれた札束を崩し、真っ赤になった大男が手持ちのカードを放ってみせる。

「掛け金の吊り上げに最後まで付いてきたのは褒めてやろう。だが残念だったな。俺の役は山賊狩人3枚、機人銃火気が2枚の『充ち満ちる無頼漢(フルハウス・クリムゾン)』だ。勝負はあったなぁ!」

 勝利を確信して獰猛な表情を見せる大男を前にしても、対面に座る青年はゆるりとした顔を崩さなかった。

「なるほど、いいカードだな。じゃあ、次はこちらから」

 青年はテーブルに並べた5枚の手札の、一番上をめくった。
 カードに描かれていたのは年端もいかない可愛い少女。
 青年の余裕の笑みに少し身構えていた大男は、カードを見て一笑に付す。

「はっ! 保護対象(カレンなショウジョ)かい。そのカードで作れる役なんざ高が知れてる。残念だったな、蛮勇匹夫さんよ」

 あからさまな蔑み。それでもなお、青年の表情は崩れない。
 続けてめくり上げていく。
 次に現れたのは風流巧手(ザ・ジョーカー)。

「ああん? ジョーカーだと?」

 3枚目、姫心電神(ザ・ジョーカー)、4枚目、硝煙舞踏(ザ・ジョーカー)。
 大男の目が大きく見開かれ、周りで息を詰めていたギャラリーが期待と興奮でざわめきだした。
 感情渦巻く直中で、力強く相手を見返す青年の手が、最後のカードを繰り返す。
 5枚目……鮮明一閃(ザ・ジョーカー)


「悪いな、ビックマン。こっちは『デスペラード・フェアリーテイル』だ」


「なん……だとぉおおおお!」

 正に、絶対勝利の役。
 テーブルを中心にして、圧縮された感情が爆発。大歓声が沸き上がった。







「次は、僕の番ですか」

 未だ興奮冷めやらぬ場。その中でもひやりと通る冷たい声。背筋を悪寒が這い上がる感触に、皆の声も静まっていく。
 そう、最後まで付いてきたのはもう一人居た。
 年齢不詳で素性も知れぬ、怪しい男。趨勢が定まったはずのテーブルで、一人ニヤニヤと笑っていた男が、自分の手札を一枚だけめくって見せた。
 描かれていたのは、誰も見たことの無い顔。

『アン・ノウン』

 不可思議なカードに呼応して、カレンなショウジョがふるふる震えた。
 そして誰もが理解した。
 この勝負は始まったばかりなのだと――

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