感情が、人を愛おしいと想う。感情で愛おしいと、思う。
- ★★★ Excellent!!!
空から落ちる雨粒が、地面でざんざん音を立て、世界の全てを透明に変える。
食べる物も、飲むものも、何も無い部屋に唯ひとり。
気配のない部屋で、一人法師。
邪の魔も無く。
冷え切った雨に濡れそぼつ現。
そんな刻こそ、この作品に相応しい頃。
風を起こさず、頁を繰る。
認識の端まで雰囲気に染まり、わかるだろう。
存在することの奇妙さを、生きることの無情さを、命あることの儚さを、心の価値と尊さを。
それでも進まなければならない理由を、それでも変わらなければならない気持ちを、それでも考えなければならない選択を、それでも受け入れなければならない結末を、代わり映えのない日常を。
白と黒の世界から受け取るだろう。
定かでない明白な、想いを。
生まれてしまった、想いを。
願う、想いを。想う、想いを。
――想いを。
読み進めるほど、心が翻弄される。
押し出され、溢れあふれるほどの情を見ているはずなのだが、世界にはどうしようもなく情がない。いつもの通りと言えば、それまでなのだが。
感情で人間が動くのは道理、ならば、感情が人間を動かしたら、どうなる?
そんな事になれば、人間の絶対的な立場は変わってしまう。
いや、もしかしたら。それさえもいつも通りなのかもしれない。
どんな想いでも、いつかは変わってしまうもの。
読みながら私は世界を変えたいと願った。
だが、変わることはないのだろう。
私には、世界に想いがあるとは思えない。
上手く、面白い作品だ。
興味深くもある。
誰かに勧めても恥じ入ることはないだろう。
同胞一人につき一冊の長編に書き換えても、耐えられるのではないだろうか。
星は三つ張りたいと強く、強く思った。
ただただ悔しいのは、私の好みから外れたことだけだ。
もっとも、ダークファンタジーが好きな人なら、はまりこんでしまうかもしれないが。