感情が、人を愛おしいと想う。感情で愛おしいと、思う。

 空から落ちる雨粒が、地面でざんざん音を立て、世界の全てを透明に変える。
 食べる物も、飲むものも、何も無い部屋に唯ひとり。
 気配のない部屋で、一人法師。
 邪の魔も無く。
 
 冷え切った雨に濡れそぼつ現。
 そんな刻こそ、この作品に相応しい頃。
 風を起こさず、頁を繰る。

 認識の端まで雰囲気に染まり、わかるだろう。
 存在することの奇妙さを、生きることの無情さを、命あることの儚さを、心の価値と尊さを。
 それでも進まなければならない理由を、それでも変わらなければならない気持ちを、それでも考えなければならない選択を、それでも受け入れなければならない結末を、代わり映えのない日常を。

 白と黒の世界から受け取るだろう。
 定かでない明白な、想いを。
 生まれてしまった、想いを。
 願う、想いを。想う、想いを。

 ――想いを。



 読み進めるほど、心が翻弄される。
 押し出され、溢れあふれるほどの情を見ているはずなのだが、世界にはどうしようもなく情がない。いつもの通りと言えば、それまでなのだが。
 感情で人間が動くのは道理、ならば、感情が人間を動かしたら、どうなる?
 そんな事になれば、人間の絶対的な立場は変わってしまう。
 いや、もしかしたら。それさえもいつも通りなのかもしれない。
 どんな想いでも、いつかは変わってしまうもの。
 読みながら私は世界を変えたいと願った。
 だが、変わることはないのだろう。
 私には、世界に想いがあるとは思えない。


 上手く、面白い作品だ。
 興味深くもある。
 誰かに勧めても恥じ入ることはないだろう。
 同胞一人につき一冊の長編に書き換えても、耐えられるのではないだろうか。
 星は三つ張りたいと強く、強く思った。























 ただただ悔しいのは、私の好みから外れたことだけだ。
 もっとも、ダークファンタジーが好きな人なら、はまりこんでしまうかもしれないが。

 

その他のおすすめレビュー

佳麓冬舞さんの他のおすすめレビュー24