シンプルな題名×複雑な謎とドラマ。これは、正統派ミステリ。

短めの話数を見て気軽に1話目を覗いた人は、その文章量に一瞬怯むかもしれない。それくらい、1話ずつが濃密なのだ。
しかし、決して読みにくいわけではない。
登場してくるキャラクターたちは、まるでシリーズを通して慣れ親しんだかのようにすっと頭に入ってくるし、そのキャラたちによる絶妙な掛け合いは、ついシリアスになり過ぎるミステリをほどよく読ませる緩衝材のような役割を果たしている。素晴らしい。

事件自体は作中でも触れられているように、かの有名な『ABC殺人』を想起させる謎の連続殺人事件であり、モチーフとしては王道といえる。だが、個人的にはあくまで“現代”を舞台としたうえで、その古典的モチーフに正々堂々挑んだ本作は、非常にワクワクしながら読むことができた。

特にハウダニット(どうやって)・フーダニット(誰が)・ホワイダニット(どうして)の謎を見事に収束させていく結末は、非常に完成度が高い。さらに欲を言えば、もっと“裏切られた”という驚きを感じたかったところではあるが、これだけの要素を詰め込んで破綻させずに完結させている時点で星3では足りないくらいだと思う。

情報量の多いタイトルが氾濫するWEB小説の世界において、洗練されたシンプルな題名であるがゆえに、埋もれてしまうことがないか。私はそこだけが気がかりである。カクヨムのミステリ好きにはぜひオススメしたい一作。

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