回想・フレデリック06
ここ数日、トードリリーの様子が少しおかしい、そんな気がした。
とは言えちょうど市街戦も激しさを増していた頃で、単に自分が過敏になっているだけだろうと思い直すに留めていた。
唐突に思い出の品が欲しい。そうせがむ彼女に、別に永訣じゃあないんだからと僕は僕のブローチを渡す。
故郷の鳥、カンムリウズラを象った可愛らしいデザイン。 それは昔父から貰ったもので、御守代わりに持ち歩いていた僕の宝物だった。
由来を説明するとトードリリーは今までに無く驚いていて、何だか涙目になっている様にも見えた。
どうやら気持ちが固まったのかなと僕は思う。それは少し寂しくもあったが、彼女の判断は尊重したい。時期は年末にでも合わせられればいいだろうか。だとすればもう彼女と一緒に居られる時間は、あと一ヶ月も無いという訳だ。 せめてクリスマスプレゼントぐらいは用意してあげようとだけふと思って、僕は踵を返しゲートへ向かった。
――大丈夫。長い時間が付けた傷も、それ以上の時と思いで癒やす事ができる。
今思えば。当時の浮かれた僕の想いは、恐らくはもう彼女の元にはなかったに違いない。だから気がつけなかった。彼女の葛藤に、煩悶に、憂患に――、僕へ向けた全てのサインに。傾く日に影を残した僕の足はどんどんとトードリリーから離れていって、多分彼女は見つめていただろう。悲痛な思いで、僕の背中を。
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