回想・フレデリック04
着任から一ヶ月。近頃トードリリーは、僕と喋る時にフードを脱ぐ様になった。心を許してくれている証なのだろうか。だとしたらそれはとても嬉しい。いつも直らない一本の寝癖を笑う度に、少しムキになって怒る姿が愛おしかった。
その日の僕は、僕の故郷の話を彼女にした。遥か遠い大陸の、緑溢れる海岸線の街。まだ海を見たことが無いというトードリリーは、その赤い瞳を一層に輝かせて、僕の語る退屈な想い出に耳を傾けてくれた。
僕が彼女にこの話をしたのには、或る理由がある。
というのも、予てから考えていたトードリリーの、僕なりの救済方法を実行に移し得るかどうか、それを確かめたかったからだ。
幸いに僕には、本国に将来を誓い合った婚約者が居る。
つまりは養子という手段でなら、トードリリーをここから連れ出す事も出来なくはなかった。今後の僕のキャリアさえ顧みなければ。
ただ問題は彼女が僕の祖国に興味を示してくれるかどうかで、僕はその事を一つ知りたかった。だがどうやらそれは杞憂で、僕の質問に彼女は「いつか行ってみたい」と一言だけ返してくれた。
緯度が殆ど同じ両国は、時差も僅かに一時間程度だったから、部屋に戻った僕は即座に恋人への電話をかける。良家出の彼女は快く引き受けてくれ、これでトードリリーを救う算段は全て整ったと安堵した僕は、その日は久しぶりの深い眠りについた。
海岸線に広がる長閑な、それでいて洗練された町並み。
自由を精一杯謳歌出来る僕の故郷でなら、きっと彼女の心の傷も、いつの日か癒える時が来るのではないか。
そんな思いを胸に抱いて。
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