日記・トードリリー02

 今日は不思議な人と出会った。

 ボクがいつも通りコピー品のDVDを売っていると、ゲートの向こうから彼はやって来た。


 清潔そうな金髪ブロンド。優しげだけど凛々しいおもて。身の丈は周囲に対し一際高く、鍛え上げられた靭やかな両腕を広げれば、それこそ神話のロック鳥の様に空へ羽ばたいてしまいそうにさえ見えた。


 隣に立つホコリ塗れの、だぼだぼした迷彩服を着こむ垢抜けない兵士とは違う、いかにも都会で洗練されたといった知的な外貌。

 或いはここには似つかわしくないと言ったほうが良かったかも知れない。


 むかし父さんに連れられて遊びに行った学校の、先生みたいな雰囲気。いやそれよりも格段に格好は良いのだけれど……

 多分にきっと銃を構えるより、教科書を持った方が似合うんじゃないだろうか。




 ――ああ駄目だ。家族が居た頃の記憶を掘り起こすと、どうしても憂鬱になる。そして次の瞬間には、全てを奪われたあの日の光景が、何度も何度も繰り返し脳内を駆け巡る。消えようも無い憎悪と、やるせない虚無をひたすらに増しながら。


 まったく、今日の彼が雄々しいロック鳥なら、ボクはまるで鳥籠に囚われた惨めな小鳥だ。飛び立つ事もさえずる事も許されず、ただ死に至る日を待ちわびるだけの真っ黒い雛。


 ボクの帰依する宗教の伝承には、こうある。

「子は死ねば鳥になる」と。


 だったら直ぐにそうなってしまえば良い。

 静かに散って終わるなら、ボクは早く鳥になって全てを忘れたい。


 籠の中のじゃない。今日出会った彼の様な、自由な空に白く羽ばたく、あの大きなロック鳥の様に。――気高く、強く、美しく。そんな風に。

 

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