実験と、その進捗報告の繰り返しの中でどんどんと深まっていく、研究テーマと主人公の周囲の人物たちの謎と影、その解明がとてもテンポよくて、一気読みしてしまいました。
研究って、自分であてはまるピースを探すパズルのようだな、と思っていたのですが、その面白さが魔法研究をテーマに親しみやすく、ぎゅっと凝縮されています。
さらに、生物方面の学生さんなら思わず噴き出す&引き込まれる&身につまされるネタがこれでもか、というくらいに満載。
ひとまず完結していますが、主人公の今後や、他の研究室、学生たちの話もぜひ読みたいです。あと田中さんかわいい。
大学院とファンタジーを組み合わせるという発想がすごいですね。おそらく著者の得意分野をいかに小説に活かせるか考えた末のアイデアなのだと思います。真新しさという意味でも意外性という意味でも、突出した作品です。
そして、この作品を支えているのは、実体験にもとづいたと思われる綿密な描写の数々です。院生のリアルな生活は、物語のなかで生きるキャラクターたちを生き生きと、鮮明に描いています。主人公と教授のやりとり、主人公とその院生仲間との会話、それらは大学院に籍を置いた方ならば「あるある」と頷けるものなのではないでしょうか。
また、私が心をくすぐられたのは白魔道士や黒魔道士、赤魔道士といった用語です。こういった懐かしい用語を配置する遊び心がにくいですね。
魔術と学術を織り交ぜた学術系ファンタジー小説、その行く末を完結まで追わせていただきたいと思います。
生物系院生たちの艱難辛苦の記憶と親近感をくすぐってくる。ポジ/ネガコン、「呪文」構造解析、超解像イメージング、インターカレーター、ドミネガ、フレームシフト、実験動物を用いたモデル実験に目の色の形質による評価。実験系確立のために数週間空振りしたり、幸運を味方にしてポジティブデータを得たり。
地方国立大のマイナー分野研究室での描写は(ちゃんとドラマチックにしつつも)写実的でどこをモデルにしているのかと疑うレベルだし、一方で魔法/呪術の考証はよく練りこまれていて十分な説得力とSF的魅力まで持つに至っている。
ただ、ここまで想定読者層狭めるならいっそ(武闘派巨乳ツンデレヒロインや蛇足的ハーレム展開といった)ラノベ成分入れない方が突き抜けてて良かったのではとも思い少し残念。なぜなら、めちゃくちゃ面白いのにラボで周囲に勧めにくいからだ。そういうのが苦手な方(カクヨム開く人なら大丈夫かな?)は、ちょっと目を瞑って読み進めて欲しい。それだけで読むのを止めるのはあまりに惜しい。
この物語においてはそれらも不可欠な要素として編み込まれているので難しいと思うが、そっちのバージョンもあれば是非読みたい。
41話(完結?)更新後追記。
対ヒト呪術という重要性の低下した研究分野としても、解呪研究のプログレスとしても、また、マイナー分野を歩む博士学生のキャリアパスとしても、実に痛快な結末だった。ポスドクとなった「僕」の次なる活躍に期待。