歳の差 4
森崎晴美が、退院と同時に改めて連絡してきた。
「社長がさ、わざわざ病院まで来てしばらく休めって言うのよ。
「へぇ」
「何よ松山さん。へぇって」
「いや、意外とまともな会社だったんだなと思って・・・森崎さん的には辛いだろうけど、普通の対応だと思うよそれ・・・」
森崎の心の内までは判らないが、仕事一筋の人だというのはみんなが思ってることだろう。
結婚もしてるし、もちろん子供だって立派に育て上げてるが、なにより仕事をしている姿が美しかった。
楽しくて仕方なさそうだった。
そんな人だから、休めと言われるのは何より辛いだろう。
「だからさぁ私行くよそっちに、ほら松山さんがこっちに来るとか言ってたけど、私暇だから・・・」
最後の投げやりな言葉に、今の森崎のすべてが詰まってる気がした。
「で、実はもうすぐ近くに来てるの」
「えっ・・・」
「営業所の方に行ったら、今日は休みだって言うから・・・今、アパートの下にいるんだけど、上がるね」そう言って電話は切れた。
以前、松山が平田咲子と付き合っていた頃、1度この部屋で3人で飲んだことがあった。
それで場所を覚えていたのだ。
10年も前に1回来ただけでよく覚えてたなとは思うが・・・
錆びた外階段を、ヒールで上がってくる音が聞こえる。
「どうしよう・・・」薫がいろんな意味で緊張しだす。
「大丈夫だよ・・・たぶん」
ピンポーンとチャイムを鳴らす音。
松山は薫にお前が出ろと合図する。
・・・えっ私?・・・
薫は人差し指で自分を指して、一瞬戸惑った仕草をしたが、本当は、松山とこんな事になっていることを、誰かに知ってもらいたかった。
それと、いたずら心もあった。
薫がチェーンを下ろして鍵を開けると、ドアは外から開いた。
「あ、室長・・・いらっしゃい」薫は言った。
もっと気の利いた面白い事を言いたかったのだが、森崎の顔を見たら出てこなかった。
「はぁ?」と森崎は驚いた顔。
「いやいやいや、ちょっと待って・・・ダメだって絶対」そう思うのも無理はない。
森崎には、息子だが同じ年ごろの子供がいる。
「松山さん!あんたって人は!!」殴りかかりそうな勢いで、森崎は上がりこんでくる。
「待ってください。私からお願いしたんです」薫は真剣な顔でハッキリ言った。
「いやそれにしたって・・・だから言ったじゃない気を付けなさいって・・・いやいやダメダメダメ」信じられないという顔のまま森崎が言う。
「大丈夫です。よく考えて私が選んだんです」薫は真剣だった。
「あなたみたいな真面目で優秀な子は、よくこういうことあるのよ・・・でもさすがにこれほどのことは・・・」
「大丈夫です」薫は笑った。
話さなければならないことは山ほどある。
長い1日になりそうだった。
「いやいや、ダメだってやっぱり!」
次の更新予定
2025年12月24日 17:00 毎週 月・水・金 17:00
赤い犬 粥川 鶏市 @tsumagurohyoumon
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