梅を干す。

お祖母ちゃんと梅を干す大学生というのは、現代ではどれほど残っているのでしょう。

その行為や技術、ここに至るまでの営みは、細くとも広く繋がっている。

白壇に灯る線香。焦げた木材の香り。どこか懐かしい日本の原風景を思い出す、どこかにある夏。

感じて、手に取って、思い浮かべて欲しい。

継承されたしょっぱさ、梅が口の中で溶けた甘みには、おいしさ以上が詰まっている。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（367文字）

応援コメントにも書かせて頂きましたが、素敵で心に染み渡るような作品でした。過ぎ去った時間と今を、美しい文章でそっと繋いでくれる名作です。

読んでいくうちに、自分自身も昔の記憶といいますか、かつての懐かしさが蘇ってきました。それを感じつつ、しみじみとした気持ちで読ませて頂きました。

この夏に相応しい、ピッタリな作品だと思いますので、是非ともご覧になってみてはいかがでしょうか(｀・ω・´)ゞ

祖母から受け継いだ梅干しの作り方を実践する、大学生の主人公。梅干しって、自分で作るとかなりの手間がかかります。しかも近年の暑さの中では重労働、雨が降っては台無しなので地域によっては天候との相談も必要です。祖母不在の家で、当たり前のようにそれをこなす主人公のもとへ、ある訪問者が。梅干しがいざなう、戦後の話。届けられたのはもしかすると、亡き曾祖母から、曾孫である主人公への、お礼でもあったのかもしれません。じりじりと照りつける太陽と、氷を浮かべた冷茶とが、静かなひとときを織り出します。近年はちょっと暑すぎますが、ある程度の暑さって記憶にも必要不可欠だったのだと、今さらのように気づきました。今作はぜ…続きを読む

梅干しを干す静かな時間の中に、家族の記憶と戦後の歴史がそっと息づく――🫂💬🏠

豆ははこ先生の『梅を干す。』は、梅干し作りという日常の営みを通して、家族の記憶と戦後の歴史がそっと交差する、詩的で深みのある短編です👵🕊️🪞

梅干しを干すという行為が、記憶を受け継ぎ、時代を越えて人と人を結びつける象徴となっている本作。静けさの中に確かな力を秘めた、心に残る一篇です🍃☀️🧂

ナツガタリのコンテスト参加作品が、カクヨム内を席巻しております。
多くの小説が生まれ、書き手は全力で書き、読み手は全力で応援されている事でしょう。ですが、敢えて言います。

それだけが全てじゃない。

こちらは、とある自主企画に参加するだけの為に書かれた作品です。
現状のカクヨムムーブメントの中では、とてもマイナーかもしれない。
だけど、それは「小説の価値」を決める事とは何一つ関係ないのです。

素晴らしい小説です。

この夏、僕は惜しみなく最大の賛辞をこちらの小説に捧げます。

面白い作品はたくさんある。
捻りの効いた作品もたくさんある。
考えさせられる作品もたくさんある。
僕はこの8月だ…続きを読む

梅仕事の手順から始まって、祖母との暮らしの細やかな描写、

そして思いがけず訪ねてきた人を通じて戦後の記憶へとつながっていく流れが、とても自然で柔らかいのに、とてもしっかり私の心の中に浸透してきました。


現代の「私」の手元の作業が、曾祖母の時代の梅干し作りや、戦後の生活に直結していて、ひとつの家・ひとつの甕を通じて時代と人がつながっている感じがすごく詩的だと思います。


特に「新聞紙に見えた『戦後』」や「今年は戦後八十年」という符号が、物語を現在と過去に橋渡ししているのが、この物語をさらに鮮やかにしています。


人物の声もそれぞれ際立っていて、祖母の穏やかさと強さ、母や叔父の距離感、…続きを読む