『一輪車』 ホラー風小説

まろ

一話完結

注意

 この作品はフィクションであり、また実在の人物 団体とは一切関係ありません。


警告

 なにかのはずみで本作を開いてしまった方はここで引き返すのが賢明です。本作を最後までお読みになると悲劇が訪れることになるでしょう。あなたの人生から貴重な刻が奪われることになります。6000文字くらいあります(約10分~15分かかりますかかります)。警告を申し上げましたが、それでもお読みになられる方には前もってお詫びをさせていただきます。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。すし◯んまい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


本編

 私が遭った恐ろしい体験です。

 私は映像制作会社の社員で普段は事務員として働いているのですが、なにぶん小さな会社なのでそれ以外の仕事も任されるときがあります。


 監督がネットで見つけた人形を大変気に入って制作中の小道具として使いたいということになりました。持ち主は人形作家の北本さんという方で交渉の末お借りできることになったのですが条件がありました。それは壊れやすいものなので宅配便などは使わずに手運びでの運搬であればというものでした。その仕事が私に回ってきたのです。


 北本さんのお宅は北関東の某駅から線路沿いをまっすぐに徒歩で十五分ほどいったところにあり、地図が苦手な私は迷わないですむな、などとおもいながら右手は永遠に線路、左手は雑木林や空き地そしてたまに住宅が現れるといった具合の閑散とした道を歩きました。


 事前に見た地図で道のりの半分と目安にしていた踏切を通り過ぎ、しばらく行くと小学生の高学年くらいの女の子たち四、五人が一輪車に乗って遊んでいる姿が見えました。私の家の近所では一輪車の人気がすっかりなくなり、久しく見られなかったその光景に懐かしい気持ちになりました。子供の頃私もよく乗ったものです。


「暑い中、ご苦労さま」


 それからほどなくして北本さんのお宅に着きました。出迎えてくれたのは北本さん本人で三十代半ばくらいの痩身で長髪の男性でした。もう話はついていたので人形を受け取って帰るだけでしたが、「お茶の一杯でも」という流れに逆らえずご馳走になることになったのです。


 北本さんは一生懸命人形についてお話をしてくださるのでしたが人形にまるで造詣のない私はただ相槌を打つばかりでした。


「ただいま~」


 さあ、どこで切り上げようと機を見計らっていたところで女の子の元気な声が聞こえてきました。女の子はその声の勢いのままに私が案内された客間の扉を開けて中に入ってきたました。その子は先ほど一輪車で遊んでいた子たちのひとりでした。


「こら彩花。お客さんがきているんだから」と北本さんが嗜めると「は~い」と返事をして彩花ちゃんはすぐに引っ込みました。

「ごめんなさい。不躾な娘で」

「元気でいいじゃないですか。さっき一輪車に乗っているのを見かけました。この辺ではまだ一輪車の人気があるんですね」


「いえ人気っていうか」


 私は失敗したと思いました。切り上げる良いきっかけだったのに自分から話を引き伸ばしにいってしまったのです。しかも――


「昔ね、十年くらい前かな? 踏切でね……通っでしょ? 踏切。あそこでね、遮断器が降りてきて、さあ電車が来るって瞬間に一輪車に乗った子がバランスを崩して……」


 ――話は予想だにしていなかった方向に進んでいきました。嫌な予感しかしません。


「その子はよく知ってた子でね。ボクの人形を気に入ってくれてて、たびたび借りに来ることがあってね。人形作家として駆け出しのときだったからうれしくて、こころよく貸してあげたものです。あの時も借りにきた直後でした。人形に気でも取られていたんでしょうね、そこに電車が来て、おっと失礼『もしもし北本です』――」


 不意にケータイが鳴り、北本さんが中座しました。


「――お待たせしました。あれ? どこまで話しましたっけ?」

「『そこに電車が来て――』ですかね……」

「ああ、それでね、電車に巻き込まれて――片足がしばらく見つからなかったんですよ。最終的には見つかたんですが。間が悪いというかなんというか、その足が見つからない間に別の子が車の事故で足をケガをしちゃうようなことがあって。それはまったくの偶然で無関係なんですが、子供の想像力は逞しいというか、最初の電車の一件とどうも結びつけてしまってようで、片足の女の子の霊が足を奪いにくるっていう変な噂が広がってしまったんです。なんでも『待ってぇ待ってぇ、足ちょうだい』と叫びながら片足でぴょんぴょんと飛び跳ねて追いかけくるんだとかで」

「そ、それと一輪車が流行ってるのにどんな関係が? 大もとの原因である一輪車にはむしろ乗らないほうが……」

「それなんですけどね。一輪車に乗ってると一本足で立ってるように見えて、それが同類だとおもわれて見逃されるだとかなんとか。その噂が継承されて今でも信じてる子が少なからずいるんですよ、うちの娘もそうなんですけどね。それでこの辺は踏切に近いこともあって一輪車に乗る子が多いんです。幽霊なんていないと言い聞かせてるんですが『見たっていう子がいるもん』といった具合で困ったもんです」


 私はこの手の話に滅法弱いのです。北本さんはただの噂という感じでしたが、私の中で生まれたしまった恐怖心を払拭することができなくなっていました。


「長いこと引き止めちゃってすいません」


 北本さんはそんな私の様子に気づいたのか、ここが区切りとなって引き上げることになったのです。時刻は夕方でしたが日没までまだ時間がありそうでしたので挨拶もそこそこに北本さんのお宅を後にしました。


 何事もありませんようにと祈りながら歩き続けていたのですが、ちょうど女の子たちが遊んでいたあたりにさしかかったところでした。


「待っ……」


 背後から声が聞こえたような気がしました。気弱な私は後ろを振り向くことなんてできません。できることといえば歩を進めることだけです。すこし足早にして進みました。


「待ってぇ」


 しかし、今度ははっきりと聞こえました。そして距離が詰まっているのも感じます。


「待ってぇ、待ってぇ」


 小走りにするも、なおも声は大きくなり近づいてきます。


「待って!」


 そして声と同時に背中に触れられる感触がありました。その時の私に悲鳴なんてあげる余裕はありませんでした。


「お姉さん!」


 それは聞き覚えのある声でした。ゆっくり振り向くとそこにいたのは彩花ちゃんでした。


「もう、忘れ物したでしょ? うちに人形置いていっちゃって」


 動揺していた私は肝心の人形を忘れてきてしまっていたのです。


「パパが取りに戻るように言ってって」


 彩花ちゃんに預けてくれたら戻らなくてもよかったのにと恐怖から逃れた私は勝手なこともおもいましたが、そういえば壊れやすいとのことでしたから、子供に託すことはできなかったのでしょう。


「じゃあ、戻りましょう」と私が声をかけると、彩花ちゃんにの顔が蒼白になっていました。そして言葉もなくゆっくり腕を上げると指さしました。その指先を辿るとはっきりと見えない距離で何かが跳ねていました。目を凝らすと親指大の大きさの人らしきものががぴょん、ぴょんと跳ねこちらに向かっているように見えました。


「あれってまさか片足の女の子の幽霊?」

「たぶんそう。ぴょん子。ううん、間違いないぴょん子だ!」

「幽霊って夜に出るんじゃないの?」

「ぴょん子はそんなの関係ないんだって」


 ぴょん子、なんとなく気の抜けたような名前が却って私の恐怖心を煽りました。私たちがこんなやりとりをしている間にぴょん子は距離を詰めてきます。まだ親指大の何かから人らしきシルエットがわかるようになった程度でしたが、かなりの速さでやって来るのがわかりました。


 計算があまり得意ではない私にも北本家に戻る時間はなさそうなのがわかりました。付近は右が線路、左は空き地といった具合で駆け込めそうな民家はありませんでした。何の策もなく呆然としていましたが、彩花ちゃんが叫びました。


「あれ美咲ちゃんのだ!」


 彩花ちゃんの視線の先にはさっきいたお友達の子のものでしょう、忘れて帰ってしまったのか一台の一輪車が線路の柵に立てかけてありました。次の瞬間私たちは一輪車のもとに駆け出していました。しかし――というか考えるまでもなくわかっていたのですが一輪車は一台。つまり助かるのは一人。私が乗って彩花ちゃんを生贄にすれば……。


「それ、お姉さんに貸して」


 奪うようにして一輪車に跨がりました。久しぶりの一輪車に乗れるかどうか不安でしたが、昔取った杵柄というのでしょうか? 体は覚えていました。無事に安定を保っています。これで助かる。ですが、本番はここからです。さすがに大人が子供を見捨てることなんてできません。


「彩花ちゃん、おんぶ」


 私は両手を伸ばして彩花ちゃんの手を取りました。すると彩花ちゃんは私の意図を察してくれたのか、眼の前でジャンプすると私の腰の上をがっちり両足で挟み込みました。そして私が前へ後ろへと一輪車を漕ぎバランスを保つ間に子供の身軽さでくるりと背後に回りました。おんぶの完成です。

 

 私の背中に飛びつくという方法もあったのですが、後ろに引っ張られて倒れるリスクを防ぐための作戦でした。


「お姉さん、すごい! わたし見捨てられるかとおもった」

「そんなわけないじゃない!!」


 ここで私はぴょん子の方にちらりと目をやるとまだ距離はありましたがぐんぐんと迫ってきているのがわかりました。


「でもまだ不安定。後ろに引っ張られる。肩車よ」

「うん、わかった」


 彩花ちゃんは私の首元に腕を絡ませながら右足を持ち上げて私の右肩にかけました。私はその足を片腕で抱えます、さらに彩花ちゃんは逆の足を持ち上げて私の左肩にかけました。肩車の完成です。


 重心が車輪の中央に集まり安定度が増しました。一安心といきたいところでしたが、私たちがこの体勢を取っている間にぴょん子は目前に迫っていたのです。


「待ってぇ、待ってぇ……」


 ぴょん子の声がうっすら耳に届きました。50メートルほど離れていましたが、それはあってないような距離でした。ぴょん子の跳躍力は凄まじく、一回のぴょんで5メートルほどでしたから、あと9、10ぴょんといったところです。


「ねえ、ぴょん子は一輪車に乗ってたら見逃してくれるんじゃないの?」

「そのはずなんだけど」


 幽霊の視力のことはよくわかりませんが、こちらが見えてないのでしょうか? いえ、そんなはずありません。こちらが見えてるからこそ襲いにかかってきているのですから。つまり何かが足りないということでしょう。それが何かがわかりませんが、やれることはやるべきです。


「彩花ちゃん立って、私の肩の上に立って! 早く!」


 私は大きさで圧倒しようという作戦にでました。彩花ちゃんは私の頭をドッジボールのように掴むと滅多に着ないよそ行きのスーツの肩を土足で踏みつけました。そして、えいっという掛け声とともに立ち上がりました。人間トーテムポールの完成です。

 

 ですが、それも徒労に終わりました。ぴょん子は意にも介さずといった感じでこちらに向かってきます。1ぴょんすると体とポニーテルを左右にぐらっと揺らしては体勢をすばやく立て直し、また1ぴょんすると目と鼻の先の10メートルほどのところまで来ていました。あと2ぴょんの距離まで近づいていたのです。


「待ってぇ、待ってぇ、足ちょ~だ~い」


 絶望的な状況でした。声もはっきり聞こえます。片足を取られたら労災はおりるのだろうかと考えはじめました。その時、奇跡はおこったのです!


「すし◯んまいっ!」


 彩花ちゃんがそう叫ぶと、ぴょん子が動きを止めたのです。頭上にいる彩花ちゃんの姿はもちろん見えませんでしたが、どんなポーズをとったのか100%当たっている自信があります。きっと胸の前で大きく手を開いてることでしょう。


「すごい! 彩花ちゃん! なんかよくわからないけど効いてるわ! もう一回」

「すし◯んまいっ!」


 するとどうでしょう。ぴょん子があきらかに怯えています。この機を逃してなるものかと私も音頭で加わります。


「あっそれ!」

「すし◯んまいっ!」

「よっ!」

「すし◯んまいっ!」

「もういっちょ!」

「すし◯んまいっ!」


 効果は絶大でした。ガタガタと震えだしたぴょん子が頭から崩壊していきます。

 そして――


「うぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」


――という断末魔の叫びをあげると崩壊は首、胴と達し、残った一本足がパタリと横倒れになって物悲しそうに消えていきました。私たちの戦いがついに終わったのです。


「本当なんです! 信じてください!」

「パパ、ホントにホントに本当なの!」

「わかりました。わかりましたから。でもね、おかしいんですよ」

「まだ信じていただけないのですか?」

「いえ、信じますけど、おかしいんですよ。だって亡くなった女の子なんていないんですから」

 何ですって!

「そんなはずないですよね。電車に巻き込まれた女の子がいるじゃないですか!」

「ボクそんなこと言いました?」

「言いましたよ。『一輪車に乗った子がバランスを崩して』って」

「ああ、それは申し訳ない。電話が来て話が中途半端になっちゃったみたいですね」

「どういうことでしょう?」

「一輪車に乗った子は無事だったんですよ。その時に持っていたボクの人形が放り投げられて電車にぶつかってバラバラになったんです。その時にしばし行方不明になったのは人形の足なんです」

なるほど。

「じゃあ私たちが遭遇したのはなんだったんでしょう?」

「それは子供たちやあなたの恐怖心が具現化したナニカとでも言いようがないでしょうね」


 あっ、一つ疑問があったんだっけ……。


「ねえ。彩花ちゃんはあの時なんですし◯んまいって叫んだの?」

「わたし、すし◯んまいが大好きで足がなくなっちゃったらあんまり行けなくなっちゃうでしょ。だから、行けなくなったらヤダなとおもって叫んでたの」

「彩花ちゃんはすし◯んまいが大好きなんだね」

「うん」


 この後、私はタクシーを呼んでもらい最寄り駅まで無事に着くことができました。タクシー代も旅費として精算してもらえるのか? なんて淡い期待を抱きつつも自腹を覚悟して電車に乗り込みました。

 以上が私が遭った恐ろしい体験です。


あとがき

 最初に注意したので私、悪くないです。すし◯んまいに行ってみたいという気持ちが途中で芽生えてしまいました。どうにか無駄に使った時間を取り戻したい? そうですか、ならば『すし◯んまい』と唱えてみてください。なんとかなるかもしれませんし、ならないかもしれません。よく知りません。これみよがしに出てきた『人形』の設定が全然生きてないじゃないかって? 需要があったら続編を書く。『応援』が30超えたら書くかも(書かないかも)。


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『一輪車』 ホラー風小説 まろ @nekomaro2222

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