#10 SCP-2026-JP 畑で育つサグラダ・ファミリア
昼行灯
SCP-2026-JP
サグラダ・ファミリアという建造物をご存知だろうか。
そう。スペインにある世界遺産の建造物だ。ちなみに世界遺産の中では唯一の未完成建造物でもある。
サグラダ・ファミリアは不完全な設計図しか現存していないことから、完成することがないと言われ続けてきたが3D技術の発展に助けられて、2026年に完成する予定になっている。
完成を楽しみにしている人は多いだろう。
SFファンタジーに現実が追いついた夢が溢れるサグラダ・ファミリアだが、実はSCP財団が管理する畑にも実っていたりする。
建造物が畑で実る? どゆこと? と思うかもしれない。
だが事実なのだ。
財団が管理している、とある県の畑では土からサグラダ・ファミリアが発生する。
土の中から上部にある塔の部分が、にょきにょきと顔を覗かせて生えてくる。完全なサグラダ・ファミリアになり、収穫できるようになるまでの時間はおよそ一ヶ月。
人参や大根のような根菜と比べても成長が早い建造物になるだろう。
ただし畑のサグラダ・ファミリアは全長30cm程度までしか成長しない。いわばミニチュアサイズのサグラダ・ファミリアだ。
まぁ、スペインのサグラダ・ファミリアサイズがにょきにょき生えてきたら、物理的な面積だけ考えても隠匿が大変な上に、収容後の管理も大変になってしまう。全長30cmで完成するのなら、財団としては助かるだろう。
畑のサグラダ・ファミリアを調査したところ、空気中の水素と酸素を結合する細胞が存在し、壁面内部には水管も確認できた。また一般的に生命の木と称される塔で光合成も行える葉緑体のような細胞も有している。生命の木はサグラダ・ファミリアにとっても生命線らしく、除去すると鮮度が低下してしまう。
つまり新鮮なサグラダ・ファミリアの性質は、建造物よりも植物、いや野菜に近いということになる。
財団はこのサグラダ・ファミリアをSCP-2026-JPにナンバリングした。
オブジェクトクラスはEuclid。
月に一度収穫しては、サイト-8129の食品保管庫で冷凍保存している。
さて、鮮度があり、植物に近しいとなると、次に気になるのは味だろう。
こんにゃくですら食材にした日本ならば、サグラダ・ファミリアも美味しく食べられるはずだ。
もっとも異常存在を食材扱いすること事態が狂気の沙汰ではあるのだが、そこは日本の食に対する拘りがあれば大した問題ではない。
味を気にするのには他にも理由がある。
元々SCP-2026-JPは、黒い人型実体のSCP-2026-JP-2が世話をしていた。それを財団が収容のために交渉した経緯がある。
SCP-2026-JP-2は友好的で会話できる知能を有していた。財団は収穫したSCP-2026-JPを渡すこととSCP-2026-JP-2にGPSを装着させることを条件にして、畑を譲渡してもらったのだ。
SCP-2026-JP-2は食通らしく、SCP-2026-JPを食べるために栽培していた。食べること前提で育てられていたのだから、食べられる筈である。
財団はSCP-2026-JPの摂食実験を行うことにした。
まずはSCP-2026-JPそのものではなく、その内部に存在する1~2㎝程度のヒトに酷似した生物に目をつけた。その生物はSCP-2026-JPの床面や壁面から栄養補給をしているらしく、生物が傷つけた部分は劣化が激しくなる。
生物は人型で服も着ているがSCP-2026-JPにとっては、寄生虫やアブラムシと言ったような存在なのだろう。
財団はこの生物をSCP-2026-JP-1に指定した。そして食べた。
調査のためとはいえ、アブラムシのような存在を食すのは、まぁまぁゲテモノ食いである。しかも異常存在であるのだから、どのような影響があるのかわからない。腹痛で済めば御の字と言えよう。
そこまでして食べたSCP-2026-JP-1だが非常に苦みが強く、人が食べるには適さない味だった。生で食べたのか火を通したのかは不明だが、SCP-2026-JP-1の足の裏には棘が内蔵された小さな穴が密集している。それらを取り除いて調理したと考えると、いくら財団の研究員でも覚悟がいったことだろう。体調の変化は無かった。
オードブルのあとはメインディッシュの出番である。
SCP-2026-JPはミニチュアサイズの建造物だ。そのままだと硬くて食べられない。だが、食材だと意識することで破壊や調理が可能になる性質がある、食べる側の姿勢が問われる意識高い系の食材SCPだ。
研究員は自分の意識を欺瞞しつつ、普通の野菜のように一通り調理を試みた。生でも食べた。その結果、調理方法により味が変化し、個体によって味にバラつきがあることが判明した。
身体や精神に悪影響はなく、SCP-2026-JP-1と同様に胃酸で消化が可能だ。これならば新種の野菜、サラダ・ファミリアとしての世界遺産申請も夢ではない。
それにサグラダ・ファミリアで販売すれば、売れること間違いないだろう。
食材として問題がないのならば、次に気になるのはレシピだ。
調理方法で味が変わるのであれば、SCP-2026-JPに相応しいレシピもあると考えられる。
しかし財団は調理人組織ではない。科学的な加工は得意でも、料理は素人だ。
そこでSCP-2026-JP-2に聞いてみることにした。
SCP-2026-JP-2はSCP-2026-JPを育てていた第一人者である。味や鮮度を活かした素晴らしいレシピを知っているかもしれない。それに起源や作成の過程を知れば、調査も捗る。
一石二鳥の期待を寄せて尾瀬調査員はインタビューを試みた。ところが、レシピを聞くどころの話じゃなくなってしまった。
どうやらスペインにあるサグラダ・ファミリアは別の星からSCP-2026-JP-2の祖父が育成のために地球に持ち込んだものということが判明した。
たしかにサグラダ・ファミリアが完成しないとされていた理由は、設計者のアントニ・ガウディの設計図が不鮮明なことにある。
もしもアントニ・ガウディがSCP-2026-JP-2の祖父ならば、設計図も地球外の図面ということになる。不鮮明なのも頷ける話だ。
そしてその孫は品種改良してミニチュアサイズのサグラダ・ファミリアの育成に成功した。
つまりSCP-2026-JP-2の家系は、美味しい物に拘るあまり農業を極めたプロということになる。なんという日本で生きられそうな異常存在だろう。
だが財団としては、それどころではない。
急いでサグラダ・ファミリアの壁面を味見したところ、SCP-2026-JP-2が嘘を言っていないことが確認された。
サグラダ・ファミリアもSCP-2026-JPと同様に食材と意識すれば食べられる。しかもSCP-2026-JP-2は完成したら食べるつもりでいるときた。
このままでは世界遺産が食べられてしまう。人類としては由々しき事態だ。
世界遺産が実は食材だったとバレるのもまずいが、異常存在が農業のプロだと世間に知られるのも避けたい事案である。
それにSCP-2026-JPは人間のDNAを利用した疑似生命体の畜産経験があった。人類もいつ食材にされるのか、わかったものではない。
比較的友好だと思っていた異常存在が、一気に危険な異常存在に格上げである。
今のところSCP-2026-JP-2は友好的である。サグラダ・ファミリアも完成しなければ食べられることはない。財団はSCP-2026-JP-2に悟られないように、サグラダ・ファミリアの完成を先送りにする手配した。
財団が窓口になることで、人類が食材になることも避けられるだろう。
その先延ばしにも限界がきた。
サグラダ・ファミリアは2026年に完成してしまう。
残された時間はわずかだ。
財団はサグラダ・ファミリアをサラダ・ファミリアにしないように検討中である。
#10 SCP-2026-JP 畑で育つサグラダ・ファミリア 昼行灯 @hiruandon_01
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