パイナップルが輪切りにされて殺された~ダイイングメッセージは野菜~

四熊

果物野菜人狼

 ここは果物と野菜が住んでいる町。


「農林水産省、農林水産省——」


 この呪文のような祈りはこの町の住人が全員例外なく信仰している神、農林水産省へ捧げる祈りである。


 皆が無事に鳥や虫に食われることなく成長できるように祈るのだ。


 そんな荘厳な雰囲気に包まれた礼拝所に悲鳴を上げながら駆け込んで来るものがいた。


「きゃー、パイナップルが輪切りに! 輪切りにされて——」


 入ってきたのはメロン、彼女は恵まれた糖度を持つ高級メロンだ。メロンはパイナップルとは恋人関係にあった。


「「なんだって!」」


 みんな驚きを隠せずにいた。パイナップルはそのとげとげしい葉っぱな見た目などイケメンなことで有名な男だ。そのサッパリとした性格で人気があったので殺されるなど信じられなかった。


 そしてメロンの案内でみんなはパイナップルが殺された場所に向かった。


 メロンの言っていた通りにパイナップルは輪切りにされた何とも凄惨な姿で死んでいた。果汁が辺りに飛び散り、今もその果肉からは果汁がまだ滴っていた。


 この殺され方は鳥や虫によるものではなかった。同じ仲間であるはずの果物、野菜の手によって殺されたのは誰の目から見ても明らかだった。


 パイナップルの輪切りのそのそばにはダイイングメッセージが残されていた


『野菜』


 パイナップルが死の間際残したものだ。


 それを見て果物たちが口々に騒ぐ。


「やっぱり野菜をこの町に住まわすべきでは無かったんだ」


「野菜たちをみんな蒸し器にかけた方がいいんじゃないか?」


 この町には貧富の差があり、高い果物と安い野菜という構造だった。そしてその対立が果物の野菜に対する差別を生み、今パイナップルが輪切りにされたことでその差別が暴力と化した。


 今にも果物たちが野菜を皆殺しにしようと一触即発だ。


 だがそんな中で出てきた男がいた。


「まあ、みなさん落ち着いて。感情的になるのも分かりますが憎むべきは犯人。野菜全体を恨むのではなく犯人を見つけ出しましょう」


 夏らしい爽やかな声でスイカが言った。


「まあ、スイカさんほどの男が言うならそうしましょう」


 果物たちはパイナップルと同じくらい人気だった黒い稲妻がチャームポイントのイケメンであるスイカの言葉で少し落ち着きを取り戻し、野菜を皆殺しにしようという暴挙は収まった。


「では状況を整理しよう、メロンさん辛いかも知れないけれど何があったか話してくれないか」


「はい、私がパイナップルを連れて今日の祈りを捧げにいこうとしたのですがそれで彼の家に行ったら返事がなくて。大丈夫かと思って家に入ったらもうこんな状態で彼は——」


 そう言って彼女は目から果汁を出して泣いた。


「状況は把握しました。メロンさん以外にパイナップルと会っていた人は」


 スイカは犯行時刻を絞ろうと質問をしたがどうやらメロン以外に会っていたものはいないようだ。


「おいおい! 第一発見者はメロンってことだろ。しかもパイナップルと会っていたのはメロンだけってことは一番怪しいじゃねぇか。果物だって言ってたが本当は野菜なんじゃねぇのか。まあパイナップルが死んだって聞いて清々したがな」


 その様子をみて町一番の嫌われ者の男ピーマンが空気を読まずに声をあげた。彼は苦みが強すぎて野菜からも嫌われている。


 彼は日ごろから果物のことを恨むようなことを言っていたことを町のみんなは知っていた。


 だからこそピーマンの挑発的な言葉に果物、野菜問わずにどよめいた。


「やっぱり! 野菜は殺すべき奴なのよ」


 みんなのアイドルで野菜にも優しいイチゴが珍しく声を荒らげた。彼女ですらこのピーマンの暴言を許すことはできなかったようだ。


「ピーマンてめぇ、俺たち野菜に迷惑かけるんじゃねぇよ!」


 大男の大根がピーマンに詰め寄る。


「そうだ、苦いだけの何の取り柄もない奴が何言ってるんだ。サラダにも入れない野菜界の面汚しが」


 野菜からも非難の声が飛び、ピーマンを処刑せよという声がどこからか聞こえてきたかと思うとみんなその言葉を繰り返し始めた。


「「処刑せよ! 処刑せよ!」」


 もうこの狂気は抑えられない、それを見てスイカを一歩出て言う。


「証拠はないがこうなった以上は町のために死んでもらう他ない」


 それを聞いた果物たちがパイナップルの仇を取ろうと何の証拠もないがピーマンを犯人と決めつけて襲い始めた。野菜たちも襲わないまでも早くそんな奴、殺してくれという感じで誰もそれを止めるものはいなかった。


「や、やめろー。俺のワタを抜かないでくれー!」


 彼は果物たちに頭を割られると中身から種をすべて引きずりだされて死んだ。


 犯人を処刑できた気になってその日はみんな安心して家路に着いた。


 だが翌日、当然ながらピーマンは犯人ではなく新たな犠牲者が生まれた。


「レタス、レタス……。なんてことだ誰がこんな——」


 葉っぱをびりびりに破かれてレタスが死んでいた。彼女はトマトの妻であった。


 そして彼女もダイイングメッセージを残していた。


『果物』


 彼女は自分の葉っぱを文字にして犯人を知らせようとしていた。


「くそっ、果物め! 果物を殺せ!」


 トマトが顔を真っ赤にして怒った。


 そうして町に次は自分たちかも知れないという空気が生まれ、狂気が伝染していった。


「そういえば、リンゴは毒リンゴで人を殺す物語があるよな怪しい!」


「そんな、あれはただの童話で。しかもあれ死んでないし、俺たちは人じゃないし」


 リンゴの声を聴く者は誰もいなかった。


 彼の体は野菜たちに取り押さえられ包丁で生きたままバラバラにされてアップルパイにされた。


 だが翌日も犠牲者は出た。次はミカンと大根とバナナ。


 ミカンと大根は皮をむかれた恐ろしい姿で殺された。ミカンは白い部分もしっかりとはぎ取られ、大根は桂剥きだ。


バナナは足を滑らせたのか誰かに押されたのか高い建物の最上階から落ちて体がぐしゃぐしゃになって死んだ。


「犯人を早く見つけなければみんな殺される」


 その言葉を発端に怪しい奴が処刑されていく。



――それから数日の内にこの町には果物も野菜も居なくなってしまった。


 いや一人だけ野菜が残っていた。トウモロコシ長老だ。


 この町の重鎮だった彼はこの町の中を必死で逃げ回っていた。


「や、やめろ。貴様ら!」


 ついに袋小路に追い詰められた長老はそう声を上げるも追跡者は聞く耳を持たず熱波をぶつけた。


 そうすると長老はしばらくうめくと体が弾けて死んだ。


 ——ポップコーンになったのだ。


 そしてこの果物と野菜がいなくなった町を闊歩するのはトマト、スイカ、イチゴ、メロンたち果実的野菜だった。


 彼らは果物にも野菜にもなれない農林水産省に定められた悲しき民。


「やっと、私たちの時代だ。果物は甘すぎ……、野菜は青臭すぎた。やはり我々こそがこの町にはふさわしい」


 そういって彼らはかつてこの町に住んでいた住民の果実と葉を喰らい笑った。


-----

果実的野菜とは一年生草本植物で食用として果実を食べる物で分類は野菜です。でしが第三勢力として書かせてもらいました。


果実は木などや多年草などになる果実を食べるもの。


野菜は一年草などの葉っぱや根を食べるもの。


だそうです。























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