一見すると、おぞましい物語です。
監禁、拷問、被虐、加虐、人体改造、殺人────────
およそ倫理に反する事柄が並びます。
しかし、その果てにたどり着く結末には不思議な、カタルシスや美しさがあるのです。
忌避する事物からしか得られない感情があるのです。
長安の都の邸宅で什器〝燭台〟として扱われる父を息子がみつける。
そこから、この奇譚は始まります。
結末に至るまでの道筋をたどるうちには、嫌悪を抱かれる方もいるでしょう。
読むのをやめる方すらいるかも知れません。
しかし、どうか結末まで読み終えてください。
読後には言いようない感情と類のない奇妙な美しさが残ることと思います。
本来、物語とは倫理に縛られないもの。
そして、小説とは言葉にできない思いを伝えるものであるはずです。
本作を一読された方は、奇妙な充足感を得られることと思います。
さあどうぞ。本編の最初の行へと、お進みください。
迫力に満ちた作品でした。
長安の都にて、『燭台』として生かされている一人の男がいた。
体を固定して動けなくされ、人間の身でありながら、ただ蝋燭を置くだけの燭台にさせられる。
刑罰というには残虐過ぎる、嗜虐趣味の産物。かつては武術家として知られて勇名を馳せた男。しかし彼は意に沿わぬ任務に異を唱えたことにより、権力者である帳兄弟の手で体を改造されてしまった。
そんな彼のもとに、息子が会いに来ることで物語が始まる。
本作は、南條範夫の『灯台鬼』にインスパイアされて書かれた作品だったそうです。
南条範夫と言えば直樹受賞作の『灯台鬼』の他、漫画通の中で語り継がれる『シグルイ』の原作者としても知られ、『残酷文学』というものを流行らせた人物でもあります。
漫画作品だった『シグルイ』でも盲目の剣士と隻腕の剣士が死闘を繰り広げるという、『人間という生き物の極限の姿』が描き出されていました。常識を超えた精神や肉体、その先の熾烈過ぎる運命をあますところなく活写して多くの人の心に響いたものでもあります。
本作はそんな南條作品のマインドを強烈に継承していて、ただの残酷趣味では終わらない、「人間が持つ強烈な底力」のようなものが描き出されているのが特徴です。
作中の主人公にもたらされる残酷な事態には目を覆いたくなる方も出るかもしれません。でもそれを越えた先にある強烈な『人間讃歌』のようなものがはっきりと描かれ、読む人の心に強いカタルシスをもたらしてくれます。
「人間が持つ邪悪さや残酷さ」、「それを更に超える強い精神の力」という、深いテーマ性が感じられる傑作でした。