第5話:地方都市ドアラ

ゴブリンを返り討ちにした翌日。


「いやぁ~参った! ホントに驚いたよ! 母親に習ったって言うから基礎ぐらいかと思っていたらとんでもない! 達人マスタークラスじゃないか! 恐れ入った!」


 あれからテリオスさんは、いいものが見れたと御者台の上で馬車を操作しながらも上機嫌だ。


「まぁあれぐらい出来ないと特訓中に死んでしまいますから……」


 実際に何度も死にかけたし……あ、なぜか目から水が出てきたぞ……。


「は……? いったいどんな特訓受けていたんだい……」


 テリオスさんがひいているが、実際ひくような特訓だったから仕方ない。


「しかしコウガ君のお母さんがあのA級冒険者パーティー『曇天どんてんたか』の槍使いだったとはねぇ」


 母さんのいたパーティーは主に『聖エリス神国』で活動していたと聞いていたが、そんなに有名なパーティーだったとはオレも知らなかった。


「そうだったんですね。オレはA級冒険者だったとしか聞いてなかったので、そんな有名だったとは知りませんでした」


「そりゃぁ有名ですよ! キマイラやドラゴンを倒したこともある、当時のエリス神国では五本の指に入るパーティーだったんだよ」


 すごいな……ドラゴン倒しちゃってるよ……。

 そのドラゴン貰えないかな……?


 しかしオレ、よくあの地獄の特訓を生き延びたな。


 この時のオレは知らなかったが、母さんは過保護が過ぎて冒険者になっても絶対に死なないようにと必死だったそうだ。


 うん。冒険者になる前に過保護のせいで死ななくて良かった……。


「ちなみにその母さんから『技だけならB級冒険者にも負けない』とお墨付きを貰ったんだけど、実際、B級冒険者ってどれぐらいの強さなんですか?」


 よくよく考えると、各ランクの冒険者がどれぐらいの強さなのかを知らなかったので聞いてみた。


「え? B級って言ったら誰もが憧れる一流の冒険者だぞ。コウガ君も大概とんでもないな……」


 なにか呆れられてしまった。


 でもそれぐらいでないと、ドラゴンテイムなんて夢のまた夢だ。

 オレはテリオスさんと他愛のない会話を続けながらも、ドラゴンテイムに向けての決意をあらたにしたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の日の朝、オレ達は『地方都市ドアラ』まであとわずかの所まで来ていた。

 その後は順調で、襲撃などもなく無事に街が見える所にまで辿り着けた。


「コウガ君。あれがドアラの街だ。地方都市としてはすこし小さめだが、そばに魔物が数多く住む『深き森』があるから、冒険者が多い事でも有名な都市だよ」


 地方都市ドアラ。


 人口は三万人ほど。街のそばに『深き森』という魔物が非常に多く住む森があり、その森の魔物を目当てに多くの冒険者が集まっていることでも有名な街だ。


 この国に三人しかいないS級冒険者の一人もこのドアラを拠点にしているらしい。


 ぜんぶ道中にテリオスさんから聞いた情報だけどね。


 都市の周りはぐるりと城壁に囲われており、見ているだけで圧倒されるような威圧感があった。


 この世界では都市と名付けられている街は、そのほとんどが高い城壁で囲まれている。主に魔物や他国の脅威から街を守るためだ。


 この地方都市ドアラも例外ではない。


 特にドアラは『トリアデン王国』最南端の都市で『深き森』の奥地は人跡未踏じんせきみとうの地となっている上、国境にもなっている他国との緩衝地帯でもある。

 大昔、まだこのドアラの街が出来る前には、魔王軍が何度か侵攻してきたこともあるそうだし高い城壁も納得だ。


「お。朝早いからまだ人がすくないようだね」


 テリオスさんが城門の前に短い列しかないのを見て嬉しそうにそうこぼす。

 街に入るための手続きはあまり待たずに済みそうだ。



 列に並んで一〇分ほどでオレたちの番が回ってきた。

 テリオスさんは商人ギルドのギルドカードを、オレは村長からもらった紹介状を衛兵に見せる。


「ん? おのぼりさんか。働く当てはあるのか?」


 おのぼりさんと言われて一瞬むっとするが、実際に今世では村から出るのは始めての完璧なおのぼりさんなので仕方ないかと思い直す。


 それに衛兵は愛想の良い人で悪気はなさそうだ。


「はい。冒険者になろうと思っています」


「やっぱりかぁ。やめとけやめとけ。冒険者なんて命がいくつあっても足りない職業だぞ。それにそんな小柄な体格じゃ一年と……」


 きっとこの衛兵のおじさんは何度となく、帰ってこない若い冒険者を見てきたのだろう。

 すこしお節介だが、本気で心配してくれているのがわかった。


 しかしそこに、テリオスさんが楽しそうに話に割り込んできた。


「衛兵さん。この子は大丈夫です。私が保証します! なんせここに来る途中にゴブリン七匹の群れに襲われたんだけど、一人で飛び出したかと思うと一〇秒ほどでぜんぶ倒してしまったんですよ!」


 テリオスさんは話をするのが大好きなので、きっとあの時の出来事を誰かに話したくて仕方なかったのだろう。


「一〇秒ってA級冒険者じゃあるまいし、おっさんも大袈裟だな……って、それよりまた・・ゴブリンが街道に出たのか……」


 本当に一〇秒ぐらいで倒したんだが……まぁいいか。

 それより「また」って言うのが気になるので聞いてみる。


「衛兵さん。『また』っていう事は最近はよく街道に魔物が出るんですか?」


「あぁ。今月に入ってもう五、六件の報告がある。その内一件は護衛を連れていなかったために犠牲者まで出ているんだ」


「なんと!? この街道は安全だと聞いていたのですが……魔物が出たのが偶然じゃないなら、これからはここも護衛を雇わないといけないですね」


 その後、どの辺りで出たのかなど細かく報告をし、ようやく街に入ることが出来た。



「いや~根掘り葉掘り聞かれて、思ったより時間を取られてしまったね」


 嬉しがっていろいろ話してたのはテリオスさんのような気もするが黙っておく。


「そうですね。でも、テリオスさんが一緒だったおかげで迷わず街まで来ることができました。それにここまで馬車に乗せてもらって助かりました。ありがとうございます!」


 本当に感謝していたので素直にお礼を言っただけなのだが、テリオスさんになぜか呆れられてしまった。


「コウガ君……君は何を言っているんだい? 礼を言うのは私の方だ。ゴブリンに襲われた時にコウガ君がいなくて私一人だったら……きっとそのまま死ぬか、なんとか逃げ延びられたとしても怪我を負っていたかもしれない。これはすくないけど護衛達成の報酬だと思って受け取ってください」


 と言いながら、銀貨三枚をそっと差し出してきた。


 たまたま一緒にいただけなんだからお礼はいらないと断ったのだけど、遠慮するなと強引に手渡してきたので、結局ありがたく頂くことになった。


 母さんから餞別に金貨三枚を貰ったのだが、これなら両替しなくて済みそうだ。


 ちなみにこの世界の貨幣の価値を大雑把に言うと、鉄貸が一枚一〇円ぐらい、銅貨が一〇〇円、大銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が一〇万円ぐらいだろうか。

 この上にさらに材料にオリハルコンを使った白金貨があって、一枚で一千万円ぐらいの価値があるようだが大きな取引などでしかつかわれていない。一度ぐらい持ってみたいものだな。


 ただ、こちらの世界は生活必需品の物価が前世よりかなり安く、逆に嗜好品や贅沢な品はすごく高いという傾向があるので、一概にこの通りではない。


「それじゃぁ有難く頂いておきます」


 もう一度お礼を言うと、テリオスさんも嬉しそうに笑みを浮かべた。


「じゃぁコウガ君が冒険者として成功することを祈っているから。またね。女神アセト様のご加護がありますように」


「テリオスさんにも女神アセト様のご加護がありますように」


 最後に道中で教えて貰った別れの挨拶を交わすと、テリオスさんは馬車に乗って大通りをそのまま進んで行った。


「いい人だったな。さぁ、いよいよ冒険者だ!」


 ちょっぴり寂しい気持ちを振り払うと、オレは冒険者ギルドに向けて歩きはじめたのだった。


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