第11話:大マジ

 何故かA級冒険者のジョゼさんと模擬戦をすることになったオレ。

 お互い準備も整い、今まさに試合が始まろうとしていた。


「さぁ、遠慮しねぇでかかってこい!」


 ジョゼさんが叫ぶと、鍛錬場の隅にいたさっきの女性が手を上げて……。


「はいはーい。じゃぁ私が審判しまーす。……そんじゃ始め~」


 と、気の抜けた開始の合図を告げた。


 久しぶりの強敵相手だ。気合いをいれていこう!


 遠くで「きゃぁー! コウガさん、やっちゃって下さーい!」とか聞こえたりはしていない。聞こえないったら聞こえない。


「コウガさん、やっちゃぇーーー!!」


 カリン、絶対仕事サボって抜け出してきてるだろ!


 いや、集中集中……。


「では遠慮せずに行かせてもらいます!」


「おぅ! こいやぁ!!」


 オレとジョゼさんとの距離は約五メートル。

 だけど、この距離はすでにオレの間合いだ!


黒闇穿天こくあんせんてん流槍術りゅうそうじゅつ、【月歩げっぽ】!」


 流派によっては縮地しゅくちと呼ばれる間合いを一瞬で詰める歩法。オレは五メートルの間合いを一気に詰めると、ジョゼさんに三段突きを放った。


「うおぉぃ!? よっ! はっ! あ、危ねぇ!? ま、マジかよ!?」


 しかし全力で放った三段突きは、野生の獣のような身のこなしですべて避けられ、後ろに逃げられてしまった。


 だけどこれで終わりじゃない! すぐさま追い打ちをかける!


黒闇穿天こくあんせんてん流槍術りゅうそうじゅつ、【雷鳴らいめい】!」


 交差する雷鳴と剣戟。

 剣と槍がぶつかったとは思えない、すさまじい音が鳴り響いた。


 普通の剣では防げないはずなのだが、さすが魔剣といったところか。

 間合いの外からの攻撃雷撃まで受け止められるとは思わなかった。


 ちょっと驚いたが、せっかく意表を突いてこちらのペースなので、ここで攻撃の手を緩めるのはもったいない。


「か~ら~の~黒闇穿天こくあんせんてん流槍術りゅうそうじゅつ、【月歩げっぽ】、そして【閃光せんこう】!」


 ジョゼさんが動揺して態勢を崩した所を月歩で一気に間合いを詰めより、すぐさま閃光を放った。



 勝った!



 そう思ったのだが……刹那の時に放たれた五つの突きは、ジョゼさんを捉えることはなかった。


 すべてかわされた!?

 え? ジョゼさんがブレた・・・


 「な、なにが!? ぐはっ!?」


 ジョゼさんの体が薄っすら光を帯びていた。

 ブレて掻き消え、突然真横に現れたジョゼさんからの横殴りの一撃。


 やばいと思った時には吹き飛ばされていた。


「あいたた……久しぶりにまともに攻撃くらってしまった」


 結界は中々優れもののようで、母さんとの模擬戦の時に何度も味わった悶絶するような痛みは襲ってこなかった。


 この結界が母さんとの特訓の時にあれば……あれ? なんだか目に水が……。


「ふぅ、負けちゃったかぁ……ん? なんだ?」


 これだけ冒険者が周りにいるのになぜか静まり返っており、審判役の女性も口をあんぐり開けてなにも言ってくれない。


「えっと、オレの負けですよね? 終わっていいです?」


 終わっていいか聞いてみる。


「え!? あっ、うん! ジョゼっちの勝ち! 模擬戦しゅうりょ!!」


 審判役の女性がそう言った瞬間、鍛錬場は大きな歓声に包まれた。


「な、何もんだよアイツ!!」


「ちょ、ちょっと待てよ!? 俺まだ何が起こったのか理解できないんだけど!?」


「名前! 名前は!? あの子の名前!!」


「ふふふん! 彼の名前はコウガさんだよ! そして私が受付担当の……あ!? 痛い!? 痛いです! 先輩、耳引っ張らないで! ちぎれます! ちぎれちゃいますって~!?」


 なんか思ったより沢山の人が模擬戦を見学していたようだ。

 最後の声は聞こえなかったことにした。



「や、ヤバかった……つい奥の手使っちまったじゃねぇか……」


「ねねね。ジョゼっち本気だったよね? さっきの切り札使ったのってあれってマジだよね?」


「あぁ、まいったぜ。ギフト使わなきゃ負けてたかもしれねぇ」


「マジかぁ……」


「大マジだ。あいつまだ冒険者登録したてだろ? これからアイツがステータス上がったら、とんでもねぇバケモンになるぞ……」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「これで実技訓練は終わりだ! ギルドには結果を報告しておく。三〇分もすれば受付で依頼を斡旋してもらえるようになるから、依頼を受けたい奴は飯でも食ってから行ってみろ!」


 ジョゼさんのその言葉で今度こそ本当に初心者講習はお開きとなった。

 ここに残っていても仕方ないので、オレもジョゼさんに続くようにギルドの建物へと向かう。


 いつの間にかもうお昼を回っているようだし、ジョゼさんの言うようにお昼でも食べて待っているか。


 なぜか三人組が視線をあわせてくれないので、とりあえず双子に「お疲れ様~」と声をかけてギルドの飲食スペースへと向かった……のだが、ニコニコしながら双子もあとをついてきた。


「ねぇねぇ! コウガすごく強いね! ……にゃ」


「ほんとほんと。私たちの父さんといい勝負かも……にゃ」


 相変わらず取ってつけたような語尾に若干ひきながらも言葉を返した。


「ありがと。でも、負けちゃったけどな」


「それでも凄かったよ! 身体能力なら獣人族の私たちの方が上のはずなのに、なんであんな風に動けるの? ……にゃ」


「そうそう。私の動体視力でも最後の突きとか何が起こったのかわからなかった……にゃ」


「あ。私の名前は『リリー』だよ。よろしく……にゃ」


「私の名前は『ルルー』。よろしく……にゃ」


「リリーとルルーか。いい名だね。オレは『コウガ』だ。よろしく……な」


 ちょっと語尾がうつったのはスルーして、二人と順に握手を交わす。


「「うん! じゃぁパーティー名どうする? 先に依頼受けちゃう? ……にゃ?」」


 ん? あれ? いつのまにそういう話になった?


 カリンといい、なんか都会の女性怖い……。


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