第12話:名前に罪はない

 ギルドの食事スペースで猫耳獣人のリリーとルルーの二人と一緒に食事をしていた。

 ここは軽食しかないようだが、このローストビーフサンドは中々ボリュームがある上に安くて旨い!


「それで……私たちとパーティー組むの嫌? ……にゃ」


 特徴的な耳や語尾に気がいってしまい意識していなかったが、こうして向かい合わせで座ってじっくり眺めると、二人ともボーイッシュだが超がつく美少女だ。

 スタイリッシュな革鎧からは引き締まったスタイルの良さも見てとれる。


 そんな二人に上目遣いに「ダメ? ……にゃ」と聞かれている健全な男子の気持ちがわかるだろうか……?


「えっと……嫌ってわけじゃないし、ダメってわけでもないんだけど……」


「「じーーー……」」


 うん、口でじーって言ってるよね?


「「じーーーーーーーーーーーーーー……」」


 あかん……これ、ダメなパターンだ……。


「……うん、パーティー組もうか」


 いや! これ、断れないだろう!?

 健全な男子には無理だって!


「「やった!! じゃぁ決まりだね! あらためてよろしく! ……にゃ」」


 結局、押し切られてパーティーを組むことなってしまった。

 ただ、この二人とパーティーを組むことは、オレにとっても良い話だった。


 双子の猫耳美少女獣人という容姿を置いておくとして、さっきの訓練で見せたあの動きは、その辺にいる冒険者よりも間違いなく強いはずだ。


 おまけに話をしてみると、彼女たちはシーフや狩人としての技術を持っているようなので、これからの冒険で頼りになりそうという点もポイントが高い。


 オレも母さんからそういう技術も叩き込まれてはいるが、正直最低限のレベルのものだ。母さん自身、あまり得意としていない技術だったからな。


「こちらこそよろしく。これからはパーティーの仲間だ。一緒に頑張って行こう!」


「「はい。これから頑張って強くなりましょう! ……にゃ」」


 この世界でのパーティーの組み方は握手をして魔力を交わすことで行う。

 こうすることで魔物を倒した際に吸収する魔力が分配されるのだ。


 この分配がソロよりも効率よく行えるのが五人までで、その数を超えると極端に効率が落ちることから、通常パーティーは五人以内で組むのが常識となっている。


 というわけで早速握手をして魔力を交わしてパーティーを結成した。


「よろしくな」


「「よろしく! ……にゃ」」


 あとは一緒に依頼を受ける際にでも、ギルドに申請すればそれで手続きの方も完了だ。このあたりは冊子にも載っており、先程の講義でも説明されたばかりだ。


「ところでこの後はどうする? オレはさっそく依頼を受けてみたいって思ってるんだけど?」


 午後から予定があるようならソロの依頼でも受けてみよう。

 そう思いつつ尋ねてみると……。


「私たちも空いているから大丈夫。一緒に依頼を受けましょ……にゃ」


「じゃぁ食べ終わったら、初依頼を受けようか」


「「りょうかい! ……にゃ」」


 さっそくパーティーで依頼を受けることになった。

 当面はソロで活動するつもりだったが、強くなるためには仲間は必須だし幸先いい。


「そうそう。連絡を取りやすくしておきたいから宿の場所とか教えて欲しい……にゃ」


「あぁ……や、宿は……妖精の呼子亭ってとこなんだけど……」


「「あれ? 私たちもその宿だよ! ……にゃ」」


 まさかの同じ宿だった。

 安いし部屋は綺麗だし料理は美味しいから、あのセンスさえ許せるのなら良い宿なのかもしれない。女の子ならそこまで抵抗もないだろうしな。


 これは運命か? なんてふざけたことを一瞬思ったが、なんということはない。

 単に二人がオススメの宿がないかと聞いた際、近くにいたカリンが話に割って入ってきて強引に勧められただけだった。


 結果的にいい宿だったから二人は感謝してるみたいだし、こうしてパーティーみんなで同じ宿を利用できるのだからオレも感謝するべきなのだろうな。


 ちょっと釈然としないが……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 食事の後、三人で受付にいくと待ち構えていたカリンに捕まった。

 パーティーだし他の受付担当に……とちょっと期待したのだが、その希望は残念ながら叶うことはなかった。


 というわけで、オレたちは予備の受付カウンターに連れて行かれ、そこでカリンから依頼の斡旋を受けていた。


 冒険者ギルドの依頼は基本的に担当受付嬢から受けるルールになっており、二人にはまだ担当受付嬢が決まっていなかったため、必然的にオレの担当であるカリンがパーティーも受け持つことになってしまったようだ。


 いや……なんかごめん……。


「さっそく依頼を受けるんですね! では説明させていただきましゅ……!」


 ……依頼は大きく分けて三つに分かれる。


 一つ目は常時依頼。

 これはボードにも張り出されており、ランクさえ見合えばいつでも誰でも受けることができるものだ。内容的にはどこにでもいるゴブリンのような魔物の討伐や、常に不足しがちな薬草などの採取依頼が多い。


 二つ目は通常依頼。

 なにもつけずに依頼というとこれを指すことが多い。

 この種の依頼はボードなどに張り出されたりはせず、担当受付嬢から斡旋してもらうことで受けることができるものだ。

 これは依頼主や依頼内容の秘匿、依頼のバッティングや依頼を巡っての冒険者同士のいざこざを防ぐためでもあり、まぁ考えてみれば妥当な運用方法だろう。

 内容的には魔物の討伐依頼や護衛依頼、かわった薬草の採取依頼など多肢に渡る。


 三つ目は指名依頼。

 名が売れた高ランク冒険者が依頼主から指名されて受けるものだ。オレたちのような駆け出し冒険者には当面関係ないものだろう。

 受けようと思って受けられるものでもないしな。


 簡単な依頼の種類の説明を聞き終えたオレたちは、通常依頼をカリンに斡旋してもらうことになった。


「それじゃぁもうパーティーを組み終わってるんですね! じゃぁ、リリーさん、ルルーさんも私が担当になりますのでよろしくお願いしましゅ!」


 カリンが噛み噛みなのもなんだか慣れてきたな。顔をまた真っ赤にしているがスルーする。


「リリーよ。よろしくお願いしましゅ……にゃ」


「ルルー。よろしくお願いしましゅ……にゃ」


 二人とも容赦ないな!?


 だけど、カリンも恥ずかしくて手をワタワタ振り回しながらも嬉しそうだ。案外馬が合うかもしれない。


「それではギルドに登録するパーティー名はどうされますか?」


 そう言えばさっき話題にはあがったけど、まだ決めていなかったな。


「どうしよう? リリー、ルルー。何かいい案ある?」


 と、両隣に座る二人に聞いてみたのだが……。


「コウガと素敵な仲間達? ……にゃ」


「コウガニャー? ……にゃ」


 聞いたオレが馬鹿だった……。

 さっきもとんでもない不思議ネームばかり提案してたからな。


「とりあえず却下ということで……」


「じゃぁ、コウガと……」


「オレの名前をパーティー名に入れるの禁止で!!」


 困ったな。いい名前が思いつかない。

 みんなどうやって決めてるんだろ?


「あの……三人を見ててなんとなく思い浮かんだんですが『恒久こうきゅう転生竜てんせいりゅう』とかどうでしゅか……?」


「え……?」


 転生も竜もオレにちなんだ言葉だし、恒久は確か永久不変って意味でパーティーがずっと続いていく感じ? うん、すごくいいかも!


 カリンの案というのがちょっとひっかかるけど……。


「転生竜ってね。私の大好きな英雄譚に出てくる伝説上の竜なんです! 強いのはもちろん、子供や妖精を助ける優しい竜で、主人公たちとの戦いの中で友情を芽生えさせて仲間になるって話なんです! この物語には双子の姉妹もでてくるし、強くて優しいコウガさんのパーティー名にぴったりじゃないですか?」


 エピソードもまともだ……というか完璧だ……カリンの案なのに……。


「凄くカッコいいです! コウガはどうですか? ……にゃ」


 でも、カリンの……。


「気に入った。私たちにぴったり。コウガはどう? ……にゃ」


 うん。名前に罪はない。


「そうだな。二人とも気に入ったみたいだし、オレもかなりしっくりきてるからこれにするか」


「やった! 私の案が通った♪ じゃぁ『恒久こうきゅう転生竜てんせいりゅう』で登録しておきますね!」


 こうしてオレたちのパーティー名は『恒久こうきゅう転生竜てんせいりゅう』に決まった。

 ちょっと駆け出し冒険者にはすぎるパーティー名だけど、これから頑張って名前に負けないパーティーになろうと秘かに想いを新たにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る