第9話:どこ村?
冒険者ギルド二階にある広い会議室で、講義が始まるのを待っていた。
ちなみにカリンとはもう別れたのだが、さっき冒険者ギルドに着くと上司と思われるギルド職員が現れ、いきなりゲンコツをくらって引きずられていった。
どうもオレを待っていたせいで遅刻したようなのだが、いったい何をしているのだか……。
しかも、昨日オレが頼んだ初心者講習の申し込みを忘れていたようで、お説教をコンコンとされていた。
すぐにその上司が特別に手続きをしてくれたので助かったが……。
その後、別れ際にその上司と思われるギルド職員から「カリンをよろしくお願いします」と頭を下げられ、普通よろしくお願いするのは冒険者のオレの方なのでは? と思ったが、空気を読んで頷いておいた。
受付担当はもうカリンで決定なようだが、まだ一つも依頼を受けていないのに不安な気持ちでいっぱいなのは何故だろう……。
などと考えていると、ギルド職員が入ってきて講義が始まった。
今回の初心者講習、オレ以外には同郷っぽい三人組の男たちだけのようだ。
歳はオレのすこし上ぐらいだろうか。
思ったよりすくないな。初心者講習は五日に一度行われているようだし、こんなものなのか。
そんな風に納得しかけたところで、勢いよく扉が開かれた。
「「すみません! 遅れちゃいました! ……にゃ」」
そう言って部屋に飛び込んできたのは、二人の女の子。
「まったく……冒険者にとって時間を守るということはすごく大事なことなんですよ? 今後このようなことは許されませんので気をつけるように」
「「はい! わかりました! ……にゃ」」
可愛いというより綺麗と言った方が似合う、切れ長の目をしたそっくりな二人。
ここまで瓜二つなら間違いなく双子だろう。
その双子はもう一度すみませんと謝ると、すこし恥ずかしそうにしながらオレの前の席に座った。
そして……オレの目の前には綺麗な純白の髪にネコミミがちょこんと二組並んで揺れていた。
とってつけたような「……にゃ」って語尾も気になるが、転生して初めて見る他種族ということの方が気になった。
この地方都市ドアラは辺境なので獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人はあまりいないと聞いていたので、猫耳をつけた獣人にちょっと興奮するオレだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
講義の内容は、昨日読んだ冊子そのままだった。
冊子を渡しただけだと読まない奴が多いのかもしれない。
オレも前世では取扱説明書などは困ってから開くタイプだったし気持ちはわかる。
だけど冒険者は命懸けだ。
知らなかったと後悔したくないので、冊子はすべて目を通していた。
だから全部知っていることばかりではあったけど、慢心して手を抜かないように気をつけよう。
「それではこれで講義は終了です。準備ができた人から鍛錬場に移動してください。あと、すぐに実技が始まりますので自前の装備がある人は用意してから向かうように」
講師の職員はそう告げると、さっさと先に部屋を出ていってしまった。
特に着替える必要はないので、オレもさっさと鍛錬場に行こうと立ち上がる。
すると、そこへ三人組の男たちが寄ってきて前に座っている双子の獣人に声をかけた。
ちょうど通路を防がれた形になったので、どうしようかと見守っていると……。
「なぁなぁ。お前ら獣人だろ? 獣人は戦闘能力高いってのは本当か?」
「どうだ? 俺たちとパーティー組まないか? 俺たちは村じゃ結構鳴らしてたんだ。損はさせないぜ?」
「ちょうど五人だしいいだろ? お前ら美人だし俺たちがいろいろと面倒みてやってもいいぜ?」
下心が丸見えだな……。
ただでさえチンピラのような風貌なのにニタニタしていて小悪党感がハンパない。
「結構よ。どうせパーティー組むなら後ろの強そうな男の子の方が一〇〇万倍マシよ……にゃ」
最後に「……にゃ」つけるのはなに? ポリシー?
いや、それよりなんか飛び火してきたぞ。
「まぁなんだ。断られたんなら諦めなよ」
話を振られて黙ってるのもなんなのでそう言うと、今度は矛先をオレに変えて声を荒げた。
「なんだーお前はぁ? おちょくってんのか!」
「ああぁん!? どこ村のもんだよ!」
どこ村って……中学生かよ……。
「喧嘩なら買ってやんぞ!」
売ってんのそっちだから。こっち売ってないから……。
「あぁ、面倒くさいなぁ……」
なにか昨日から色々と鬱憤が溜まっていたようで、気付けばそう呟いてしまっていた。なんの鬱憤だろうね。
まぁでも、もういいや。ちょっとだけ痛い目にあってもらうか。
そう思った時だった。
「君たちさ~元気あり余ってるみたいだねぇ。まぁ俺的にはそんなことさぁ、心底どうでもいいんだけどさぁ。俺さぁ、今日約束あるからさっさと実技指導終わらせたいんだ。だから、とっとと鍛錬場に移動しないと
いつの間にか扉にもたれるように立っていた男が、言い終わると同時に尋常じゃない殺気を放ってきた。
「「「ひぃやっ!?」」」
「「くっ!? ……にゃ」」
男達が情けなく短い悲鳴をあげて蹲り、双子は何とか耐えるが苦悶の声をあげる。
双子の語尾を徹底するその姿に若干感動を覚えつつ、オレも母さんに迫る殺気にちょっと驚いた。
オレはほら……母さんとの地獄の特訓で慣れてるから……。
そんな強烈な殺気に感心しつつ男をよく見てみると、胸元にゴールドのギルドカードがぶら下がっていた。
ということはA級冒険者か。
「すみません。すぐに移動しますのでー」
オレは頭をさげて謝ると、先に鍛錬場に移動することにした。
逃げるが勝ち。君子危うきに近寄らず。
「お? いったい何者だ? ……ちょっと軽く試して見るか」
背後から何かいや~な言葉が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだと現実逃避しつつ、足早にその場を後にした。
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