第8話:カリンちゃんの憂鬱 その1
◆◇◆◇ カリン視点 ◆◇◆◇
気付けばギルド職員になって三ヶ月が経っていました。
一五歳になって私もようやく大人の女性の仲間入り。
しかも夢にまで見た冒険者ギルドの受付嬢ってことで、気合いもやる気も十分でした。
研修を終え、ようやく初めて受付を任せてもらった時は、それはもう本当に嬉しかったんです!
でも……何度も何度も家で練習してたのに、受付業務ではミスばかり……。
A級冒険者パーティーにゴブリン討伐を紹介して怒らせたり、E級冒険者に王都までの護衛依頼を斡旋したのに気づき、慌てて追いかけてC級の人に代わってもらったり、クエストの完了報告をあげ忘れて依頼主が怒鳴り込んで来たり、他にも……。
とにかくぜんぜんまともに仕事がこなせなくて、気付けば誰も私の受付カウンターに並ばなくなっていました。
そして昨日、とうとうギルド職員の上司から言われたんです……。
「カリン君……悪評が広がって君の受付に誰も並ばなくなってしまっています。悪いですけど今日で一旦受付からは外れてもらいます。いいですね?」
ショックでした。凹みました。
わ、私だって凹む時ぐらいあるんですよ!
三日連続でお弁当忘れた時とか、信じてた妖精が実はお伽噺の中の存在だったのを知った時とか……あと、えっと、ほかには……とにかく凹んだり落ち込む時もあるんですよ!?
……話がそれました。
とにかく、せっかく頑張って憧れの冒険者ギルドの受付嬢になれたのに、カウンターについてたった一週間で私の子供の頃からの夢は終わりを告げてしまったんです。
誰ですか? 上のやつ全部一週間でやらかしたのかって言った人?
「そんな落ち込まないでください。カリン君が頑張っているのは知っています。すぐには無理ですが、ほとぼりが冷めて経験を積んだらまた受付に座ってもらいますから」
何とか望みは繋ぎましたが、冒険者ギルドの受付嬢と言えばこの街の女の子のなりたい職業ナンバーワンのお仕事です。
新たに採用される子も出てくるだろうし、ギルド職員としては続けられても、復帰はかなり難しそうです。
だから、せめて最後ぐらいは良い所を見せないと復帰は絶望的な状況でした。
そんな時でした。
いかにも『おのぼりさん』といった感じの同い年ぐらいの男の子が、スタスタと私の受付の方に向かって歩いてきてくれているではないですか!
私は本当に嬉しくて嬉しくて……あ、しかも結構カッコいいです! タイプです!
おっと……話がそれました。
「あっ」
でも、私の胸の「見習い」のプレートに気付いたようで、隣の受付に変えようとしています!?
私はこのままでは不味いと思い「こっちこい~こっちこい~」とその子に念を送りました。
最近は何故か念を送ると目を逸らされていましたが、その男の子にはちゃんと効果があったようです!
人差し指で頬をかきながらも、私の前まで来てくれました!
頬をかくとか照れてるのかな?
「ようこそ冒険者ギルド、ドアラ支部へ! 今日はどのようなご用件でしゅか!」
だと言うのに……私は嬉しさと緊張のあまり、また噛んでしまいました。
やらかしました。またやってしまいました。
また馬鹿にされる……と思ったのに、その子はやさしく気づかないふりを……。
恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃいましたが、やさしさに甘えて素知らぬ顔で受付業務を続けることにします。
「えっと、とりあえず冒険者登録したいんですが」
私は正直言うと、その後のことはよく覚えていません。
でも、初めて冒険者登録を最後までさせて貰えました! えぇ。初めてですがなにか?
ということは、きっと最後までしっかり対応できたってことですね!
と喜んでいると上司がやってきて……。
「いやぁ、ツッコミどころ満載でしたが、初めて冒険者登録を最後まで出来ましたね。一旦今日で受付カウンターからは外れてもらいますが、彼、優しそうだし彼専属の受付担当になっちゃいましょう。
と言ってくれたではありませんか!
私は嬉しくて小躍りしそうになるのをグッと我慢して、でも我慢しきれなくて椅子に座りながらも器用に小躍りしていると、さっきの彼「コウガ」さんが戻ってきました。見られなくて良かったです。
なにか不備でもあったのかと一瞬不安になりましたが、やはり今回の私の対応は完璧だったようです。
なんでも、お薦めの宿を教えて欲しいとか。
これはチャンスです! これから担当になることですし、なにがなんでも私の実家が営んでいる宿『妖精の呼子亭』に泊まってもらって仲良くなるしかありません!
私はいかにその宿がお薦めなのかをこんこんと切々とがっつりと説明し、最後には納得して貰えたようなので、きっと泊ってくれることでしょう。
コウガさんは、さっそく翌日の初心者講習を受けると言っていましたし、私も全力でサポートしたいと思います!
と思ったのが昨日の話。
そして今、目の前を歩くコウガさん。
私は、これから彼と一緒に一人前になれるように頑張るぞ! と、小さく握りこぶしを作り、気合いを入れ直したのでした。
あれ?
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