第14話:再会
冒険者になって一ヶ月が経とうとしていた。
あれからリリーとルルーと三人で毎日のように依頼をこなしている。
普通は二、三日に一回は休むそうなのだが、オレたちにはDランクの依頼は手ごたえがなさすぎたため、休みなく毎日依頼をこなしていた。
いや、それどころか早く片付いた日には、一日に二つの依頼をこなすこともあった。
今日もあっさりとグレイトボア討伐の依頼を片づけたので、今はギルドへ報告に向かっているところだ。
「今日は予定よりかなり早く終わったな」
「うん。私たち強いから……にゃ」
「ところでコウガ。明日からの三日間なんだけど、ちょっとパーティー活動を休ませて欲しい……にゃ」
リリーがすごく申し訳なさそうに尋ねてきた。
「じーーーー」
いや、そうでもないな……あざとく上目遣いでといったほうがいいか……。
ちなみに、さすがに一か月も一緒に過ごすと、普通に二人の見分けもつくようになってきている。
「あぁ、かまわないよ。なにかあるのか?」
数日休むぐらいまったく問題はないが、実は休みなく依頼を受けてたのが辛かったというのなら今後の活動ペースを考える必要がある。
だから理由は聞いておきたい。
「ありがとう。ちょっと里の仲間が来たので追い返……じゃなくて相手しないといけないの……にゃ」
どうやらあまり会いたくない相手のようだ。ルルーは嫌そうな顔して唸っていた。
しかし、そういう理由ならペース自体は問題なさそうなのでホッとした。
「そうなんだ。まぁ普通にちょっと休みたい時とかも遠慮せずに言ってくれよな」
その後、カリンに達成報告をして報酬を貰ったあと、二人は出迎えの準備があるからと宿へと帰っていった。
さて……オレはどうするかな。
ちょっと小腹が減ってきたし、ギルドの飲食スペースでお気に入りのローストビーフサンドでも食べるか。
そう言えば町に出て来てからは、ずっと二人と一緒だったから一人で食事するのは久しぶりかもしれない。
冒険者ギルドに着いたオレは、さっそく飲食スペースで目当てのものを注文すると空いてる席についた。
それから待つこと数分。
「お。きたきた」
ここのローストビーフサンド旨いんだよな。
店員から受け取ると、すぐに豪快にかぶりつく。その瞬間、口の中に肉汁の濃厚な味わいが広がった。
「うまい!」
それから夢中で一気に平らげ、ようやく一息ついた。これからのことでも考えるか。
でも、とりあえずは明日からの三日間か。
ゆっくり過ごしてもいいんだけど、この八年間休まず特訓を続けてきたからな。休もうと考える思考パターンが……。
ん? そういえばオレって一人で依頼を受けたことがないな。
初めてのソロ依頼でも受けてみるか。
そんなことを考えていると、隣の席から気になる会話が聞こえてきた。
「おい聞いたか? 深き森の奥にある『朽ちた神殿』あるだろ? あの辺りでザックの奴がやられたらしいぞ」
「なんてこった……こないだ一緒に依頼こなした所だぞ。しかし、一体何にやられたんだ? ザックは逃げ足だけはBランク並みだったろ?」
「それがな。傷跡から考えるにワイバーンか、もしくはドラゴンモドキじゃないかっていう話だ。唯一逃げ切ったパーティーメンバーも大怪我でな。まだ意識が戻ってないから本当のところはわかってないみたいだが……」
ドラゴンモドキってのは見た目はちいさいアースドラゴンって感じらしいが、亜竜ですら無いトカゲの魔物だ。こっちだと興味はないが……。
「ひでー話だな。しかし、ドラゴンモドキは足遅いからザックなら逃げれるんじゃないか?」
「確かにそうだな。そうなるとワイバーンかよ。ちょっと『朽ちた神殿』の辺りの依頼はしばらく控えた方がいいな」
ワイバーンか……。
亜竜だからオレのギフトが通用する可能性は低いけど、一回ぐらい試してみる価値はあるよな。
確か『朽ちた神殿』は南門から出て、ひたすら南に向かった先にあるとかいう話だったはず。
よし! 明日の朝一で向かってみよう!
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、朝日が昇る前に『妖精の呼子亭』を出ると、南門の開門と同時にドアラの街を後にした。
結局ソロ依頼は受けておらず、時間に縛られないようにコイルさんにも三日ほど宿に戻らないかもしれないとだけ伝えてある。
見つからなければ野営するつもりで、予備も含めて五日分の食料を持ってきているし、水は餞別でもらった水筒があるので準備にぬかりはない。
深き森に入って四時間ほどが経過。
当初の予定よりかなり早く『朽ちた神殿』まで辿り着いた。
特訓でも森の中は散々歩き回ったので、普通の冒険者より森での移動速度はかなり速い。
それに加え、道中はゴブリンやオーク、はぐれのキラーアントとしか遭遇しなかったので、戦闘に時間を取られなかったのも大きいのだろう。
「しかし、ほとんどなにもないな」
朽ちた神殿は、名の示す通りそのほとんどが朽ち果てていた。
わずかに確認できたのは白い石の残骸ぐらいだろうか。
ただ、ギルドの資料によると地上よりも地下に大きく広がる神殿らしく、地下に関しては未踏区画の多い大迷宮となっているようだ。
しばらく注意を払いながら興味深く辺りを探索していると……突然開けた一角に出て、地下へと続く階段を発見した。
だが、今回の目的は地下の大迷宮ではない。
すこし後ろ髪をひかれつつも素通りしようとした時だった。
「ん?」
その地下への入口付近である人物と再会することになった。
そこにいたのは冒険者風の五人組。
そのパーティーリーダーらしき男がオレの気配に気づくと、すぐさま指示を飛ばした。
「誰だ!? 陣形D!」
即座に指示を出せるのは、幾度となく死線を超えてきたベテランならではだろう。
指示を出したのは、オレのよく知る人物。
だから敵対するつもりは当然ない。オレは警戒を解いて欲しいと両手をあげながら挨拶をした。
「ジョゼさん、お久しぶりです! オレです。コウガです!」
そこにいたのは初心者講習で世話になったジョゼさん率いるパーティー『
「おいおい。コウガは何度驚かせれば気が済むんだよ? ……ん!? お前、まさかとは思うが……一人でこんなとこまで来たのか?」
ジョゼさんは他に誰かいないのかと周りの気配を探ったようだが、当然オレ一人しかいない。
「ジョゼっち……この子の行動にいちいち驚いていたらキリがないと思う。噂とか知らないの?」
この人は確か講習の時に回復役で来てた人だ。
確か名前が『テンテン』で、カリン情報だとエルフの血が四分の一混ざっているクオーターエルフらしい。
「何だよ。強いのはわかってるが、こいつなにかあるのか?」
「この子のパーティー『
話を聞いてまたジョゼさんが驚いていると、顔を知らない残りの三人が話しかけてきた。
「へぇ~、この子が前にジョゼが言ってた規格外って子かい?」
「なんだ。思ったより
「コウガ君でしたっけ? 君はこんな所になんで一人でいるんです? 正直異常な行動に見えるんですが?」
一人目の女性と二人目のドワーフのおじさんは単に興味津々といった様子だが、眼鏡をかけた三人目の男性はオレのことを疑っているようだ。
まぁ自分でも不審に思うので仕方ない……。
普通森の奥に一人で入ることはないと聞くからな。
ただ、オレは母さんに特訓だと言われて、子供の頃に一人で森の奥に置き去りにされたりとかして慣れて……あれ? 目頭が熱く……。
「まぁ普通に考えりゃぁ気でも狂ってるのかって思われてもしかたない行動だな。それで……お前は本当にこんな所で何してるんだ?」
ジョゼさんは一瞬目に警戒の色を滲ませると、続きをひきとってここにいる理由を問うてきた。
え? そこまで怪しい行動なのか。
母さんから叩き込まれた常識をすこし疑ったほうがいいのかもしれない……。
「えっと、ここらでワイバーンが現れたって小耳に挟んだので確かめに?」
オレは素直に話すことにした。
ワイバーンについて何か情報を持っているかもしれないしな。
「なんで疑問形なんだよ! ワイバーンならここから更に何日か南下すればそのうち遭遇するだろうが、そんなの確かめてどうすんだ?」
「ジョゼっち情報遅い。この辺りで襲われた冒険者がいるそうよ。コウガっちは調査依頼でも受けたの?」
やっぱりこの辺りであってるようだ。
それに何日か南下すれば他のワイバーンにも出会えるかもしれない。
「そうですね。ギルドの依頼ではなく個人的な依頼なんですが、その調査って所です」
なんかめっちゃ疑われているので依頼ってことにしておく。
「まじか。こんな森の奥深くに一人とか正気かよ」
「えっと……オレは『静かなる森』の中の名も無き村出身なんで、深い森は慣れてるんですよ」
そう言うと、今度はジョゼさん以外が驚いた顔をする。
「へぇ~辺境の中の辺境。幻の村とか言われてるとこじゃないの。すごい村出身なのね」
「そうじゃな。それなら一人で森に入るっていうのも納得じゃ」
うちの村が若干ディスられてる気がするが、納得はしてくれたようなので情報の礼を言って立ち去ることにしよう。
ちなみにジョゼさんは単に村の話を知らなかったので、驚きようがなかっただけらしい。
ワイバーンの情報も掴めたし、すこし南下してみるか。
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