第6話:君こそ頑張れよ

 期待に胸を膨らませ、冒険者ギルド目指して意気揚々と歩き出したのだが……。


「わ、別れる前に冒険者ギルドの場所、聞いておけば良かった……」


 仕方ないので衛兵のいる所まで戻って場所を聞き、今度こそ本当に冒険者ギルドに向けて歩き出した。


 一段落したところで改めてこの街を眺めてみると、全体的に石造りの家が多く、屋根だけ木を使っている家が多そうだ。

 そばに森があるから木の家が多いのかと思っていたけど何か理由があるのか?

 通りはそこそこ広くて区画も整理されており、意外と言っては失礼だが綺麗な街並みだった。


 しかしそんなことより……この世界では初めて見る人の数に圧倒される。


 もちろん前世と比べたらぜんぜん大したことない数なのだけど、通りを歩く沢山の人がいる光景はこの世界では初めてだ。


 なんだか見るものすべてが新鮮に感じ、キョロキョロと辺りを見まわしては驚き、また歩く。

 周りから見れば、きっとオレは立派なおのぼりさんになっていただろう。


 そんなおのぼりさん状態で三〇分ほど歩いた頃だろうか。

 ようやく冒険者ギルドらしい大きな建物が見えてきた。


「あれか~思ってた以上に大きいな」


 オレは西門から入ってきたのだが、どうやら南門の近くに建てられているようだ。

 南か東の門から街の外に出れば、すぐに『深き森』が広がっているのでその方が利便性が高いのだろう。


 冒険者ギルドは四階建ての大きな石造りの建物で、二階建てが多いこの街では遠くからでもすぐに気づくことができた。


 この世界では初めて見る大きさの建物だ。


 その大きな建物の横にはこれまた大きな厩舎があり、裏手にはかなり広い鍛錬場らしきものも見える。

 ランクアップ試験の時などにも利用されるようだが、母さんが言うには使用されていなければ冒険者は自由に使っていいらしい。

 よく見てみれば、今も何人かの冒険者と思しき人たちが何かの訓練をしているのが見えた。


「いよいよか」


 呟き、緊張しながら冒険者ギルドの扉を開く。


 中に入ると中央奥には受付のようなカウンターが、右手には回復薬などの冒険に必要な道具類や軽食を売っていた。ほかにも軽い飲み食いが出来そうなスペースも設けられており、酒場が併設してあるようだ。


 何人か飲み食いしている人が見えるが、思ったより人は少ない。


 すこしお腹は空いているが、まずは冒険者登録だ。

 カウンターの奥に受付嬢らしきギルド職員がいるのを見つけ、そちらに向かう。


 いくつかあるカウンターの中から空いている所に向かったのだが、その受付嬢の胸には「見習い」と書かれたワッペンが見えた。


 慣れるまではアドバイスとか聞きたいし、ベテランそうな受付嬢がいる隣のカウンターに向かおう。そう思ったのだが……「じーーーっ」とこちらに熱い視線を送る見習い受付嬢と目が合ってしまった。


 し、仕方ない……ここにしようか……。


「ようこそ冒険者ギルド、ドアラ支部へ! 今日はどのようなご用件でしゅか!」


 噛んだ……。


 同じぐらいの歳のかなりの美少女なのだが、その顔がみるみる赤くなっていく。

 よし。無かった事にしておこう。


「えっと……とりあえず冒険者登録したいんですが」


 あたふたとしながら何かマニュアルのようなものを取り出す受付嬢……大丈夫だろうか。


「冒険者登録ですね! それではまずは紹介状か、街に入るときに渡された入場カードをお願いします」


 しかし、今度は噛まずにスラスラと話し切った。などとホッとしている場合ではない。

 今度はオレの方があわてて紹介状を取り出した。


「紹介状があります」


 街に入るときにも使った村長からの紹介状を渡すと、紹介状に押されている魔法印が本物であるかを確認し始めた。

 魔法印とはインクの代わりに魔力によって押す印鑑のようなもので、特殊な道具を使うことで本物かどうかの確認ができる。


「お待たせしてしまってすみません! 『静かなる森』の村の方ですね。確認が出来ましたので、この用紙に記入をお願いします。代筆が必要なら私がお書きしますので遠慮せずに言ってください!」


 確認が終わったようで、冒険者登録のための記入用紙を渡してくれた。


 オレは母さんから冒険者として必要な知識や文字の読み書きは特訓の一環で叩き込まれたので、もちろん自分で記入する。

 思い出して一瞬涙ぐみそうになったのは内緒だ。


 名前とメインで使う武器、サブで使う武器、魔法適性の有無などの記入欄があった。

 特に迷うような欄はなかったので、さらっと記入して用紙を返す。


 メイン武器はもちろん『槍』、サブ武器はナイフしかもっていないので『ナイフ』、魔法適性は村で唯一魔法が使える薬師のおばさんに詠唱魔法の適性を診てもらったのだが、残念ながら『なし』だった。

 母さん曰く魔力はかなり多いらしく、すごく残念がられた。


「はい。記入は……問題ないですね。コウガさん、それでは最後に魔力紋をギルドカードに登録します。こちらの道具の上に手を置き、魔道具を使う時のように魔力を込めてみてください」


 オレは「わかりました」とこたえると、差し出された魔道具の上に手をおいて魔力を込める。

 すると、セットされていたギルドカードが薄っすらと光を帯びた。


「うん。これでいけた……かな? あ、うん、これで大丈夫です!」


 なんかちょっと不安だが、これで登録は終わったようだ。


「ありがとう。ギルドカードって、その場ですぐ発行されるんですね」


 と言ってギルドカードを受け取ると、オレはそれをそのまま首からかけた。


 冒険者は常に見える位置にギルドカードを付けておく必要があると、オレは母さんから・・・・・聞いていたので。


 受付嬢が説明を忘れていたのを思い出して「あっ」とか言ってる気がするがスルーしておく。


「えっと……これで冒険者登録は完了になります。あっ、こちらは冒険者のルールなどがついた冊子になります。初心者講習を一度受ける必要がありますのでそれまでに必ず目を通しておいてください。あっ、初心者講習って言うのは一と五の付く日に行っていますので都合のちゅく日に申し込んでください。い、依頼は初心者講習を受けた後でないと受けれませんので注意しゅてください。じょじょじょ常時依頼も含めて講習の後でしか受けれましぇん。うぅ、ふ、普通の依頼は私たちギルド職員からの斡旋と言う形になります……えっと……こ、これで説明全部かな……」


 最後はグダグダだ……。

 でも可哀想なぐらい顔が真っ赤だし、一応は聞き取れたからなにも言わないでおこう……。


 とりあえず明日が五の付く日なので初心者講習を申し込んでおくか。


「じゃぁ、とりあえず明日さっそく初心者講習の申し込みをお願いします」


「わかりました! 明日の初心者講習に申し込んでおきます! 冒険者登録はギルド職員見習いのカ・リ・ン・ ・ ・が担当させて頂きました! これから頑張ってくだしゃいね!」


 ふたたび顔を真っ赤に染めるカリンさんに、思わず「君こそ頑張れよ」と言いそうになったが、ぐっとこらえてお礼だけ言ってギルドを後にした。


「そう言えば、お薦めの宿を聞こうと思ってたのに……」


 なにか最初からすっかりペースを乱されてしまった。

 仕方ないのでもう一度冒険者ギルドに戻り、やはり空いていたカリンさんの所に向かう。


 嬉しそうに変な踊りをしていたけど、見なかったことにしてお手頃なお薦めの宿を教えて貰った。


 なんだか凄く疲れた。

 可愛い子だったけど、こういうのを残念美少女って言うのだろうか……。

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