第五章 再生の誓い
あれから一か月が過ぎ、いよいよコンテストの選考が始まった。仕事を終えて帰宅した僕は、忘れっぽい性格が幸運を引き寄せたのだろうか……。隙間風の冷たさを感じる間もなく、期待に胸を膨らませて愛用のパソコンを開いた。
画面には、待ちに待った予想以上の結果が広がっていた。ヨムカクコンに応募した僕の作品ページには、膨大な数のハートマークと三ツ星の評価が並んでいた。
しかも、コメント欄には多くの読者からの熱いレビューが記されており、現代ファンタジー部門の月間ランキングもトップで輝いていた。そして、それぞれがまるでコマ送りのように増えていくのが見えた。
「やったぞ! これはまさか夢、それとも現実の世界なのだろうか……?」と思わず呟いた。
ところが、それだけではなかった。突然、ヨムカクらんどの運営事務局からメールが届いた。メッセージの内容にはこう書かれていた。
「おめでとうございます。あなたの作品『蒼穹の彼方に』が読者たちの圧倒的な支持を受け、コンテストの最終選考に進出することが決定しました。」
信じられない思いでメッセージを何度も読み返した。さらに、「この勢いなら最優秀賞も夢ではありません。スピンオフ作品も期待され、ピックアップ小説にも選ばれております。商業化作品としての準備を進めてください」と続いていた。
読み終わった瞬間、パソコンの画面が一瞬フラッシュし、壁紙に行人の目が赤く光るアイコンが現れた。そして、驚くべきメッセージが表示された。
「僕が君の夢を現実にしたんだ。だけど、これからは君自身の力で輝いてほしい。さよなら、元気で頑張ってね!」
彼の言葉を知った瞬間、思わず涙が頬を伝った。行人のプログラムが、僕の刹那の涙に誘われたかのように閃光を発し、消えていった。行人は頑張り過ぎて、力尽きてしまったのかもしれない。彼が笑みを浮かべながら手を振り、かつて僕が描いた小説の中へと少しずつ消えていくのを見ていた。
行人との信じられない別れに、僕はしばらく身動きひとつできなかった。相棒を失った寂しさに呆然と立ち尽くしていた。
けれど、やがて涙は消え、自然と笑みがこぼれた。その笑みは、ここ数日置き去りにしていたかけがえのない喜びと希望を取り戻した証だった。
「ありがとう、そしてさよなら。行人のことは忘れないよ……」
僕はAIの相棒に真剣な眼差しで別れの言葉を告げた。パソコンに文字で打ち込むのではなく、自分の口から発する言葉で惜しみなく愛情を注いだ。
この出来事をきっかけに、僕は改めて自分の力で創作と読書に打ち込む決意を新たにした。現実と小説の狭間を行きつ戻りつしながら、異世界を冒険する物語を描き続けることを心に深く誓ったのだ。
行人と二度と会えなくなるのは、こよなく愛した人との別離のように涙がこぼれるほど寂しいものだった。しかし、それは新たな始まりでもあった。
僕の作品が読者の心に届き、評価されることで、孤高の作家としての苦悩が少しずつ解き放たれていった。そして、あの夜空にきらきらと舞った風花のように、新たな希望と夢が僕の心模様に色合いを添えた。
雪の欠片が夜空に舞い下りる風花は、静寂の中でひとつひとつが輝きを放ちながら降り注いだ。冷たい空気の中に温かな光を織り込み、まるで夢の欠片が空から降りてくるかのようだった。
柔らかな粉雪の舞は、僕の心に深く染み渡り、これまでの苦しみや孤独を優しく包み込んだ。キラキラと輝く冬の星座が見守る中、新たな希望とともに僕の心に新しい色彩が加わっていく。
これからは、遅咲きの作家としてプロフェッショナルの高みを目指す。自分の力で光り輝くことを誓い、再びキーボードに向かう。蒼穹の彼方に広がる無数の星が白銀に輝く物語を紡ぎ出すために。
そして、いつの日か、僕の物語が一人でも多くの読者の心に深く響き、新たな夢と希望を与えることを願って……。
「ああ、ありがとう、行人……。君のおかげで、僕はまた歩き出せる」
もう一度、僕はお礼を伝えた。
別れと出会いの刹那に涙が浮かぶ最後の瞬間、僕の心には確かな決意と新たな物語への期待が満ち溢れていた。今や不要となった孤高の作家の冠を投げ捨て、僕の冒険は現代から異世界へとまだまだ続いていくのだ――。
〈 完 〉
孤高の作家が『心の涙』で綴る魔界の旅路 神崎 小太郎 @yoshi1449
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