第3話 試験当日
「先生の魔法を無効にするぐらいは、僕には朝飯前さ」
アウルは微笑むと、床の下に落ちたブレスレットを拾い上げてポケットに入れてから、目を閉じた。そして、低く囁いた。
「時の精霊よ、ここに来たれ」
その言葉に応えるように、アウルの閉じた瞳の奥に未来の光景が広がった。
やがて彼は静かに目を開け、大きくため息をついた。
「まいったな……アウラのやつ、クラスのみんなも……」
未来に視たものを振り払うように頭を振ると、アウルは肩をすくめて笑った。
「仕方ないな。結局、付き合うしかないか」
* *
試験当日。教室に入ってきた先生が、生徒たちに試験前の注意事項を告げた。
「生徒のみなさん、おはようございます。今日は”秘められた言葉の建築術”の筆記試験を行います。机の上には筆記用具以外は出さないようにしてください。もし、それ以外のものが見つかった場合は、全教科赤点となりますので、十分注意するように」
「はーい」
「では、始め!」
先生の合図が響くと同時に、生徒たちは一斉にゴソゴソと動き始めた。何やら、全員が一斉に黒縁の四角いメガネを取り出し、かけ始めたのだ。その異様な光景に、先生は一瞬言葉を失った。
「な、なんですか、その妙な眼鏡は……?」
教室中の生徒たちは、ハッとしたようにお互いを見回し、気まずそうな顔をする。隣の席に座っていた男子生徒を、アウラが鋭く睨みつけた。
「ちょっと! あんた、クラス全員に言いふらしたの? あの”ウェアラブルメガネ”のこと!」
「だって……」男子生徒は肩をすくめる。
「アウラが話してた試験対策の話、気になってネットで調べたら、ウェアラブルメガネが出てきたんだよ。魔法は、先生の使い魔が邪魔をして、(カンニングには……)使えないじゃん。すごい便利そうだから、みんなにも教えたらいいかなって思って……。あはっ、でも、まさか全員が買うとは思わなかったなぁ、うん、思わなかった!」
男子生徒の告白に、アウラはさらに顔を険しくした。
そんな生徒たちのやり取りを聞きながら、先生は深くため息をつく。そして、教室の最後尾に座るアウルに視線を向けた。
「アウル、あなたまで……。いったい、これはどういう悪ふざけですか」
優等生として知られるアウルを責める声には、呆れと失望が混じっていた。すると、アウルは苦笑いを浮かべながら言った。
「えっと……最近みんな、視力が悪くなっちゃったみたいで。勉強のしすぎ……かな?」
その場しのぎの言い訳が通用するはずもなく、先生は即座にウェアラブルメガネのカンニング機能を見抜いた。
「全員、全教科赤点です!追試は一週間後に行います。その時、またおかしなことをしたら全員留年ですから、そのつもりで!」
怒りに燃える先生はそう告げると、教室を後にした。
アウラはメガネを投げ捨て、すぐさまアウルの席に駆け寄る。
「ちょっと! あんた、なんでそんなメガネかけてんのよ!優等生のあんたに必要ないでしょ!」
問い詰めるアウラに、アウルは少し困ったように笑って言った。
「未来視魔法を使ったんだよ。そしたら、試験中に先生がみんなの前でブチ切れてる光景が見えたんだ。だからさ……自分だけ合格するなんて、ちょっと嫌だろ。卒業式を一人で迎えるなんて、寂しくてたまらないし」
アウラは目を瞬かせた後、ため息をつきながら笑みをこぼした。
そんな姉の様子を見届けたアウルは、クラス全体に向き直り、声を張り上げた。
「よし! 僕が面倒を見るから、一週間後の追試に向けて特訓だ!目指せ全員合格! その後は、"在校生を見送る会"の練習だって忘れるなよ!」
* * *
その年の春、魔法学院では卒業生と在校生全員が参加する盛大な卒業式が行われた。 アウラとアウルの双子の名前も、きっちりと卒業生名簿に刻まれていた。
ちなみに、今年の卒業生たちが在校生に送って大喝采を浴びた歌は、
『”秘められた言葉の建築術”かんたん覚え歌、vr2』だった。
― 了 ―
魔法学院の試験対策 RIKO @kazanasi-rin
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