第6話 リュウゼツランの花の下で

西暦2124年。

最先端のロボット産業の先頭を行く、創業九十八年の老舗企業 『テン・ワード・ロボティクス・カンパニー』


十七歳の少女の容姿を模して造られた、その創業当時から全くデザインフォルムを変えないモデルネーム【AKI-2024】モデルは、創業者自宅跡のすぐそばにある路線バスの停留所付近を移動していた。


AIの進歩は目覚ましく、この頃のAIロボットは、相手からの質問に対する受け答え以外にも自分で自分に自問自答出来る機能も持ち合わせていた。


AKI-2024は、この場所に初めて訪れる筈であった。それなのに、不思議な事にAKIのメモリーには、以前この場所に訪れた事でもあるような残像がちらちらと現れたり消えたりを繰り返していた。


何かのバグだろうか?次のメンテナンスの時に、この現象のフィードバックをして細かく検査してもらった方がいいかもしれない。


だいたい、どうして自分のモデルだけ九十八年も同じフォルムデザインを続ける必要があるのか。他のモデルは随時フォルムデザインの変更をするのに、このモデルだけが未だに創業当時のフォルムデザインを継承している。時々、原因不明のバグが発生するのは、この事が要因の一つになっているのでは無いだろうか。


このモデルを設計したのは、テン・ワード・ロボティクス・カンパニーの創始者『十文字吾郎』という男だ。よっぽどこのモデルに愛着があるらしい。


突然、AIのメイン指令システムにアラートが鳴り響いた。西南方向に注視せよと言っている。


アラートに従い西南方向に顔を向けると、そこから五十メートル先に全長五メートル程の背の高い植物が確認出来た。


あれは何だ。WiFiを使って検索をすると、リュウゼツランという名前の植物らしい。


その植物の上部に黄色い花のような物を確認出来た。それが確認出来た瞬間から、どうもおかしい……あの距離であれば、もっと鮮明な画像を入手出来る筈なのに、どうも画像が不鮮明なようだ。



暫くして原因が判明した。どうも眼球の周りのどこかでらしい。だから画像が歪んで不鮮明なのだ。

これは困った……どうにも止まらない。

そのうえ、AIの信号がどうにも不安定だ。これではまるでみたいじゃないか。

人間は、通常悲しい時に涙を流す。しかし、今私のAIのグラフには『嬉しい』という判定がされているようだ。これも何かしらのバグだろうか……

半永久的に稼働を続けるこのAKI-2024モデルは、これからもあと何百年もその役割を果たしていかなければならない。

早急に本部にフィードバックして、メンテナンスのリクエストを出してもらわなければ。



◆最後まで読んで下さって本当にありがとうございました。

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夏目漱一郎


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【カクコン10短編応募作品】リュウゼツランの花の下で 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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