1-7 井上真一、身も蓋もない事を言う

 井上真一は、三人のヤンキーを前にして、冷静に抱負を語り始めた。


「そんなわけで僕はね、勉学に励んで、この春日高校での三年間を穏やかに過ごしたいわけだ」


 リーゼントの有瀬は、驚いたように目を見開いた。


「え、でも井上さんともあろうお方なら、県内、いや全国制覇も夢じゃないでしょうに……。一体なぜそんな、もったいない……」






 井上は、微笑みながら首を振った。


「そりゃきみ、ステキな彼女を作るためだよ」


「……え?」金髪パーマの戸塚があまりの意外さに間抜けな声を出した。「だって井上さん、旭中でモテモテだったじゃないですか、ヤンキー女子たちから」


 井上は苦笑いを浮かべ、手を振った。


「違う違う。あんなのはいらないんだよ。俺が求めているのは、優しくて常識があって心のあったかい女性。そんな人と添い遂げるのが昔からの夢なんだ」



 亀甲マスクの保谷が無言のまま感心したようにうなずく中、戸塚は驚きで目を丸くした。


「井上さん…… 存外、乙女だったんですね……」


 その井上は、遠くを見つめ、語り続けた。


「そうだよ。そのためには、まず自分が将来性のある人間にならなきゃって思ったわけさ。だから、九九すらやばかったけど、猛勉強して特待生としてこの春日高校に来た。目指すは推薦で付属大を……」


「……あのレジェンド井上さんからそんな話が出てくるとは……」有瀬が悔し涙を流して歯噛みし、


「そもそも進学校の不良って定義は一体……」戸塚がうつむいて肩を震わせた。





 井上は、三人をじっと見つめ、冷静に断じた。


「──定義? そうな……。努力して、下手に勉強できるようになった時点で君らはもう不良じゃないんだよ。しかも、進学校ではどうあがいたって底辺」


 つまり、不良ですらない普通以下の人。


「うわあああああ!!」


 頭を抱えながらリーゼントと金髪のふたりが崩れ落ち、保谷だけは腕を組んで無言のまま深くうなずいていた。

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上杉さんは女装の才能がありすぎる①げっそり月曜日編 @AK-74

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