【第三章】君と色づく世界(3)

「おいじゅん、オーダーは味噌だろ? それ醤油ダレ」


「ああ、ごめん……」


「今日はどうしだんだよ」


 昨日はほとんど眠れなかった。可琳がまた僕の前から消えてしまうんじゃないか――そんな漠然とした不安が頭から離れなかったせいだ。おかげで僕は、バイト中に凡ミスばかりを繰り返している。


「時安と何かあったのか?」


「え、なんで」


「いや、お前の悩み事なんて、時安のことくらいしかないだろ」


「まるで僕の頭の中が可琳でいっぱいみたいな言い方だな……まあその通りなんだけど」


 僕は肩をすくめて、少しだけ苦笑いを浮かべた。


「喧嘩でもしたのか?」


「いや、そうじゃなくて」


 麺を茹でながら考え込む。

 そうか、確かに娘の付き合っている相手がラーメン屋でバイトをしているフリーターなんて、母親からしたら不安要素しかないな。可琳のお母さんも、僕のそういうところが気に入らないんだろうか。

 やっぱり、早くちゃんと就職しないといけないな。


 ……そもそも可琳のお母さんは僕のこと、どのくらい知っているんだろう? 僕は初対面だと思ったけど、昨日の会話では僕のことを知っている風だったし。可琳が話したのかな。

――いや、昨日の雰囲気からすると、可琳は僕と付き合っていることを、お母さんに話していないようだった。


 悶々と考え続けていると、見かねた窪がぼやいた。


「こんな状況で、明日シフト入ってくれなんて、洵には言えないなー」


「え、なんで?」


 窪は、壁に貼られたポスターを目線で指し示す。それを見て僕はハッとする。

 そうか、明日は――。


「え、休んでいいの?」


「その代わり、ちゃんと報告しろよ。良い話を期待してるからな」


 窪はニヤッと笑いながら拳を軽く突き出してきた。その姿に、僕の胸は熱くなる。

 僕も拳を作り、コツンとあてた。


「本当にありがとう、窪。僕、めちゃめちゃいい友達持ったな」


「そうだろう、そうだろう。感謝しろよ?」


 窪は誇らしげに頷いた。彼の明るさと気遣いに、僕は救われてばかりだ。

 でも――僕は心のどこかで、それを喜べなかった。


――今日、可琳は会いに来てくれるだろうか。


 今朝送ったメッセージは、まだ既読にならないままだった。

 嫌な予感がする。

 本当にこのまま、永遠に可琳に会えなくなってしまうんじゃないだろうか。


 小学五年の夏――。

 あの時、僕は何も知らされないまま、突然可琳を失った。

 また同じことが繰り返されるんじゃないか。

 可琳が突然消えてしまうんじゃないか。

 そんな不安が、僕の胸を締め付ける――。


 なんていう僕の不安をよそに、可琳はいつもより少し遅い時間ではあったけれど、ひょっこりとラーメン屋に顔を出した。


「こんばんはー。ハチ、昨日はごめんね」


「可琳!」


 その声が、店内に響いてしまった。


 僕は周りの視線を浴びて、慌てて顔を赤くする。けれど、そんなことどうでもいい。またこうして可琳に会えたのだから。


「今日はもうあがっていいぞ。全然仕事に身が入ってなかったしな」


 窪の軽口に「ごめん、ありがとう」と返しながら、僕は慌ただしく帰り支度を済ませた。


 可琳と一緒に店を出て、並んで夜道を歩く。湿り気を含んだ夜風が、火照った頬をそっと撫でていく。

 どう話を切り出そうかと迷っていると、可琳の方から口を開いた。


「昨日は本当にごめんね。実はハチとのこと、ずっとママに内緒にしてて。でももう、全部話したから大丈夫。ママもわかってくれたから安心して」


「えっと……」


 正直、全然安心できない。可琳の言葉はどこか曖昧で、肝心な部分が抜けているように感じる。


「もしかして僕、可琳のお母さんによく思われてない?」


「あっ、違う!」


 可琳は大げさなくらい、両手を振った。


「ハチは関係なくて! 全部私が悪いの。自分勝手に行動しすぎてて……でもきちんと話したから、本当にもう大丈夫。ハチは何も悪くないよ」


「そう……なのか」


 そう言われてほっとした。でも同時に、胸の奥に小さな違和感が残る。まるで可琳が、何かを必死に隠しているように思えてしまって……。


 二人の足音だけが夜道に響く。

 僕はあえて余計な詮索をせず、「大丈夫」という言葉を信じようとした。

 可琳が言うなら、大丈夫――。


 そのあと僕たちは近くの居酒屋で晩ごはんを食べることにした。

 入り口の暖簾をくぐると、店内には焼き鳥の香ばしい匂いと、楽しげな笑い声が聞こえてくる。テーブル席に案内されると、可琳がメニューを手に取りながら笑顔で言った。


「ハチの好きなもの頼んでいいよ」


 可琳のその言葉に甘えて、僕はビールと、軽く何品かを注文した。お通しの小鉢がテーブルに置かれると、僕の頭に浮かんでいた疑問が再び顔を覗かせる。


「ねえ、可琳のお母さん、僕のこと知ってたみたいだけど……小さい頃に会ってたりするのかな。僕は全然覚えてないんだけど」


 その時、一瞬だけ可琳の表情が曇ったように見えた。彼女は目線を少し横にそらしながら、うーん、と小さく唸る。


「直接話したことはないけど、ハチのことは知ってるんだと思うよ。ハチのお父さんは、昔ママと同じ部署で働いていたし。ハチのことは、お父さんからよく聞いてたんじゃないかな」


「父さんが僕のことを誰かに話すなんて、あんまり想像できないな」


 そう言いながら、僕は、記憶の底に沈んでいたものを掘り起こす。


「仕事ばっかりで、遊んでもらった記憶もあんまりないし、僕に興味なんてなかったんだと思う」


 苦い思い出が胸をよぎる。

 父さんはほとんど家にいなかった。覚えているのは、離婚をする少し前のことだ。毎日のように激しく言い争う父さんと母さんの姿。

 母さんを怒鳴りつける父さん――その荒々しい声が、今も耳にこびりついている。


 僕は言葉を切りながら、なんとなく、箸の先で小鉢の中身をつついてしまう。酢の効いたキュウリの香りがふわりと鼻をかすめたが、それを口に運ぶ気にはなれなかった。

 僕の表情が険しくなったからか、可琳が、少し慌てたように口を開いた。


「ごめん、私はハチのお父さんと話したことがあって、そんなに悪い人に見えなかったから……」


 思わぬ言葉に、僕は顔を上げる。


「可琳も、僕の父さんに会ったことがあるんだ」


「うん。子どもの頃にね。でも――」


 可琳は少し言葉を濁した。僕が黙って続きを待っていると、彼女は控えめに続けた。


「ハチの中に、あんまり良い記憶が残ってないなら、お父さんの話はしないほうがいい?」


 彼女の気遣いが伝わり、つい笑みがこぼれた。


「特に話す内容もないしね。あんまり家にいなかったし」


「そうなんだ……」


 可琳は僕の顔をじっと見つめていたが、やがて話題を切り替えるように尋ねた。


「今はお母さんと暮らしてるんだよね。お母さんは元気にしてる?」


「うん。趣味のフラダンスを楽しんでるみたいだし、今は悠々自適に暮らしてるよ」


 母さんが幸せそうに過ごしている姿を思い浮かべると、胸の奥が少しだけ暖かくなる。


「小さかった頃は親の離婚なんて嫌だったけど、今こうして幸せそうにしている母さんを見ると、これでよかったんだなって思えるよ」


 言葉にした瞬間、過去の苦い記憶がほんの少し和らぐ気がした。

 ふと、可琳の手元が動いているのに気づく。よく見てみると、箸袋で何かを作っているようだった。器用な指先が小さな紙を折りたたむ様子に、自然と目を奪われる。


「ならよかった。ハチもお母さんも幸せなら、それで」


 可琳は小さな犬の形をした箸置きを完成させると、箸をそっとその上に乗せた。


「凄い。器用なんだね」


「小さい頃から折り紙が大好きで、ママとよく折って遊んだの。……これ、ダックスフンド。ママに作り方教えてもらったんだ。ついクセで箸袋があると折っちゃうんだよね」


 可琳の言葉にはどこか懐かしさが滲んでいて、その声を聞いているだけで、彼女と母親の穏やかな時間が目に浮かぶようだった。


「可琳は、お母さんと仲いいの?」


「うん。昨日はあんなところ見せちゃったけど、ママのことが大好き。優しいし、強くてかっこいいし、私のこと、いつも一番に考えてくれる。私は迷惑ばっかりかけちゃってるけど、ずっと大切にしてもらってる」


 可琳の言葉の端々に、母親への深い愛情が伝わる。でもその反面、何か迷惑をかけてしまったことへの罪悪感もあるのだろうか。


「うちもね、離婚してて。ママが一人で私のこと育ててくれたんだ」


「そっか、僕たち、親がバツイチって共通点があるんだ」


「そういえばそうだね。親一人、子一人だ」


――あれ?

 その瞬間、僕の中で違和感が弾けた。


 親一人、子一人。

 それはおかしい。僕の記憶では――たしか、可琳には弟がいたはずだ。


「可琳って……一人っ子だったっけ」


「ん? そうだけど?」


「弟が……いない?」


 可琳の箸が一瞬だけ止まった気がした。でも、それは気のせいだったのかもしれない。彼女はすぐに、何でもないような顔で答えた。


「ああ……小さい頃は弟が欲しいってママにしつこく言って困らせたことがあったけど……まあ、片親なんだから無理な話よね」


――違う。僕が覚えているのは、そんな話じゃない。

 初めて可琳の家に遊びに行ったとき。可琳の部屋の片隅にいた、あの動かない人物。可琳が「あれは弟だ」と言っていなかったか?


 ……でも。もうおぼろげになっている記憶。

 視線を合わせることもできなかった何か。動かない弟の姿。その全てが夢だったような気もするし、現実だった気もする。


「……そっか、僕の勘違いかな」


 軽く言葉を濁して、箸を手に取る。

 でも弟に関しては――最後に姿を見かけたのは、いつだっただろうか。一緒に遊んだ記憶はなくても、彼は可琳の家にいた気がする。

 ぼんやりと記憶を辿ってみるが、その姿はいつも遠く、霧がかかったように輪郭が曖昧だ。

 いや、この記憶も結局は僕の勝手な思い込みなのかもしれない。可琳自身が「一人っ子」って言うんだから、弟はいないのだろう。


「どうしたの?」


 可琳が心配そうに顔を覗き込む。その瞳の奥に、一瞬だけ不安げな色が見えた気がした。


「いや、なんでもないよ。ちょっと昔のことを思い出しただけ」


 僕は思わず笑顔を作った。可琳は何も疑わずに、ふっと笑って頷いた。


 サラダと、お刺身と、焼き鳥と、タコの唐揚げ。次々と料理が運ばれてくる。

 僕たちはそれをつまみながら、たわいもない話を延々とした。

 子どもの頃の思い出や、学校での出来事、最近見た面白い映画の話。いつものように笑い合い、僕たちに足りなかった時間を、ひとつひとつ取り戻していく。


 可琳との距離を縮めたい気持ちはあるけれど、その一方で、僕の心には消えない不安が渦巻いていた。笑顔で話す可琳の姿を見ても、それはかえって強くなるばかりだった。

 理由なんてわからない。ただ、可琳のお母さんと会ったあの日から、胸の奥に得体の知れない焦りが生まれ、それが加速している。

――時間がない。そんな気がしてならない。


 店を出ると、夜風が冷たく感じた。酔いが少し回ったのか、頭がぼんやりしている。

 可琳と並んで歩きながら、彼女の横顔をそっと盗み見る。ふとした瞬間に見せる憂いを帯びた表情が、胸を締めつけた。

 可琳を家まで送る道すがら、僕は心を決めた。


「可琳、明日の土曜日は仕事休み?」


「うん」


「じゃあさ、明日、夕方の六時五十分。この間、二人でお弁当を食べたあの河原で会えないかな」


「うん。いいけど……ふふ。何? その中途半端な待ち合わせ時間」


 可琳は口元に軽く閉じた手をあてて、ふふっと笑う。その仕草に、僕の胸が少しだけ緩む。けれど、次の僕の言葉で、可琳の笑顔がかすかに揺らいだ。


「大切な話があるんだ」


 僕はまっすぐに可琳の瞳を見つめた。彼女の頬がほんのり赤く染まるのがわかる。数秒間、どちらも言葉を失ったまま見つめ合う。


「わかった」


 可琳は少し困惑したように小さく頷いた。けれど、すぐにいつもの柔らかな笑顔を見せる。


「じゃあ明日、六時五十分に、あの河原ね」


「うん。待ってる」


 彼女の笑顔に、僕も微笑みを返す。

 可琳の家の前まで来たところで、何気なくドアを見つめる。今日は「お茶飲んでく?」とは誘われない。可琳のお母さんが家にいるのだろうかとふと思う。しかし、僕の頭は明日の計画でいっぱいだった。


 明日――僕は、可琳にプロポーズをする。


 可琳と再び会うことができてから、ずっと心の奥にあった言葉。

 いつか言えたらいいなと思っていた言葉。

 それを伝えようと決めたのは、彼女と再会してからの日々を振り返り、この関係を曖昧なままにしておきたくないと感じたからだ。


 あの日、可琳のお母さんに出会ってから、僕の心の中には焦りが芽生え始めていた。それが何に起因するのか、明確にはわからない。

 ただひとつ、はっきりしていることがある。


――僕は、可琳と未来を歩みたい。


  *


 土曜日。

 いろいろ考えすぎて、変な夢を見ていた気がする。

 薄暗い部屋で、誰かに名前を呼ばれているような感覚だけが残っている。でも、声の主が誰なのか、どんな内容だったのか、目が覚めた瞬間にはすべて霧の中だ。


 まだ寝ぼけた頭の中に雑音が混じっている気がして、僕は目を覚ますためにコーヒーを淹れた。

 パソコンを開き、株式会社アストラルアークへ送る履歴書を書く。

 株式会社アストラルアークは、父さんが勤めていた会社だ。今はいないらしいけど、可琳と、そして可琳のお母さんもここで働いている。


 画面に向かいながら緊張する。

 プロポーズをするからには、きちんとした職にきたい。――可琳にはまた「順番がおかしい」って言われそうだけど。


 父さんの影響で、僕は小さい頃から少しだけプログラムを書くことができた。

 簡単なゲームくらいしか作ったことがなかったけれど、僕には虫取りとプログラミングくらいしか好きなことがなかったので、自然とその道に進んだ。


 昆虫は、その見た目の美しさや、生態の面白さに惹かれていたけれど、僕はあの夏以降、あまり外で遊ばなくなり、昆虫採集もしなくなった。

 その代わり、自分で組んだ通りに動くゲームの世界にのめり込み、RPGなどは特に、自分が世界を創っているような楽しさがあって、もっと複雑で楽しいゲームを作りたいと、プログラミングを勉強し、夢中になっていった。

 憧れていた東京の、情報科学がある大学に進学したのも、その延長だった。

 数年SEとして働きながら、結局自分が父さんと同じ道を歩んでいることに苦笑いした。

 離れて暮らしていても、血の繋がりを感じて嫌になる。


 でも僕は父さんみたいに、家庭を顧みない最低な男にはならない。

 可琳のことを大切にする。絶対に可琳を幸せにする。


 僕は手を止めて、画面の中の履歴書をじっと見つめる。

 父さんがかつて働いていた会社に応募することには抵抗があった。でも、今の僕ができることはプログラミングしかないし、僕達をほっておいてまで没頭していた仕事がどんなものなのか、ほんの少しだけ興味があるのも事実だと思う。


 あんなに嫌いな父さんなのに、悔しいけれど僕は、心のどこかで父さんのことを知りたいと思っているのかもしれない。


 僕は最後の確認を終え、履歴書をネット経由で送信する。送信完了の通知が画面に表示されると、少しだけ肩の力が抜けた。

 可琳との幸せな未来を想像する。

 これは、そのための第一歩だ。


「よし、次は」


 母が作った昼食をとり、シャワーを浴びる。

 数少ない洋服の中から一番良いものを選んで、この町に一つだけあるショッピングモールへ向かった。


 ジュエリーショップ――僕にとっては一生縁が無いと思っていた場所だ。扉を開けると、キラキラとしたショーケースの光が目に飛び込んでくる。

 僕は緊張で体がこわばり、ぎこちない足取りで陳列された指輪を眺めた。


「何かお探しですか?」


 声をかけられて振り向くと、笑顔の女性店員が立っていた。


「彼女に指輪をプレゼントしたいのですが……」


「まあ、素敵ですね! 何かご希望のデザインやお好みのスタイルはございますか?」


 そう訊かれて、僕はハッとする。可琳の好みなんて、何もわからない。そりゃそうだ、僕たちはまだ付き合って間もない……。


「えっと……実は彼女にプロポーズをしようと思っているのですが」


「まあ!」


 店員さんの顔がぱっと明るくなる。


「でしたら、こちらはいかがでしょう? シンプルですが上品で、とても人気のデザインなんですよ」

 いくつか指輪を見せてもらうが、僕は心の中で「しまった」と思う。


「あの……彼女の指輪のサイズがわからなくて……」


「大丈夫ですよ。後日サイズのお直しも可能ですし、サプライズで選ばれる方も多いんです」


 店員さんの明るい声に少しだけ救われた気がした。

 指輪を一つ手に取ってみる。小さな宝石が、ショーケースのライトを受けて輝いている。これを、可琳の薬指に……。想像しただけで胸が高鳴る。


 僕は一度、深呼吸をした。そして手にした指輪を店員さんに見せる。


「これにします。お願いします」


「かしこまりました」


 店員さんの笑顔を見て、少しだけ肩の力が抜けた。包み終わるまでの短い時間、僕は案内された椅子に腰掛け、落ち着かない視線をショーケースの中に彷徨わせる。

 その間にも、不安が胸の奥で膨れ上がっていく。


 ――指輪のサイズさえわからない僕が、プロポーズなんてしていいのだろうか。


 僕のこの焦りは一体どこから来ているのか。

 昨日も、可琳と一緒に晩ごはんを食べた。手を伸ばせば届く距離に彼女はいる。彼女も僕のことを好きでいてくれると信じている。それなのに。


 まるで指の隙間から大切なものがこぼれ落ちていくような感覚が拭えない。

 ――可琳が、今にも消えてしまいそうで怖い。


 店員さんが包装を終えて、リボンをかけた小さな箱を手渡してくれる。僕はその箱をそっと手のひらに乗せた。こんなに小さな箱なのに、とても重く感じる。


 プロポーズをしたら、可琳はどんな顔をするだろう。

 笑ってくれるだろうか。それとも驚いて、困った顔をするだろうか。

 僕は、受け入れてもらえるのだろうか。

 不安な気持ちと連動して、急に鼓動が早くなる。

 でも、確かなことが一つだけある。


 僕には可琳が必要だ。


 たとえこの一歩を踏み出すのが怖くても、彼女なしの世界なんて、もう想像もできない。

 小さな箱をそっと胸ポケットにしまい、僕は深く息を吐いた。

 これが僕の、覚悟の証だ。

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