女の正体
内に居るのは、
――名が、分からない。
――姿が、見えない。
牛が引く乗り物
轅(ながえ)
榻(しじ)
牛車の乗車用の踏み台
牛車から牛を外した時に、
糸毛(いとげ)の牛車(ぎっしゃ)
色は、乗車する者の身分によって、決められている。
紫は、身分が中位から下位の帝の
門の前に着くと、女の声が牛車の内から、
牛車の内に居るのは、女だけなのか。――分からない。
牛飼童(うしかいわらわ)
牛を操る人
「童(わらわ)」と呼ばれるが、成人男子も多い。
車副い(くるまぞい)
牛車に付き添う従者たち
「
「ほ」
牛車の内で、女の声が笑う。
「止まりなさい、紀友則」
戸に、頭が当たっても、進み続ける友則の
友則は
「
「我が名を呼ぶな」
女の声が言った。
友則の後ろに付いて来ただけの望行と貫之は、女の声を聞いて、
吾(あ)
ぼく
耳疾し(みみとし)
耳が良い
正身(そうじみ)
正体
友則の耳が、人よりも遥か遠くの音を聞き分けることを知っていて、女は
「泣く子を慰めに来たのだよ」
「泣いてなどいないぞっ」
女の笑む声に言われて、友則は耳をふさいだまま、言い返し、座り込んだまま、
「このようなことになり、誠に申し訳ありません」
望行が謝った。
「全ては、私の過ちだ」
断言する女の声に、友則も、望行も貫之も、顔を上げた。
「今日は、謝りに来たのだ」
友則が
「
誰にも作り笑いと分かる笑み声だ。
戯れ言(たわぶれごと)
冗談
「あの
女の声が言う。
「歌を思いつかなかっただけなのではないですか~」
友則が
「
世の人ごとの しげければ
忘れぬものの かれぬべらなり」
女の声が歌を詠んだ。
世の中の人たちの噂がうるさいので
あなたを忘れたわけではなくて
会いに行けなくなっているだけです
空蝉(うつせみ)
セミの抜け殻のように中身がない
現身(うつせみ)
この世にある、この身
しげき(
草が
かれぬ(
草が枯れるように、想いが冷めて、離れる
あれこれと、
実は私、紀貫之の妹なんです。 山鹿るり @yamaga-ruri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。実は私、紀貫之の妹なんです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます