死と食を掛け合わせたダークファンタジー。
あらすじを書こうとすると、暗い内容になってしまします。
ただ、食事と料理の描写に力をいれて、シリアスな部分を軽く書いているので、「悲惨で読み続けられない!」と、途中で挫折する心配はないかと思います。
修道女と偽聖女と肉団子スープの話は「読みやすかった」です。
淡々と書かれているおかげで、ヘンに感情移入せずに読むことができます。
それでも処刑や戦争等で死ぬのは……と抵抗を感じるなら、第五話の巫女の話をおすすめします。
飢餓に苦しむ人、餌には困らないが最後は殺される生贄の牛、料理をふるまわれる既に死んでいる人を通して「食」について考えなおす内容となっています。
楽しみにしていた名瀬口にぼし先生の新作は、明日死ぬとわかっていても、今日、食べることをやめられない《人間の業》に、限りなくストレートに切り込んだ作品でした。
ファンタジー世界の《食》にスポットを当てた作品はありがちですが、この作品の風変わりな点は、登場人物たちがはやいところで明日、あるいは早晩、種々様々な理由によって《死ぬ》と確定しているところ。
人種も性別も、職業も身分も様々な死者たちに、必ずあったはずの《最後の晩餐》。それらの風景を、感情を、においや音を、短編集という形で切り取ることで、読者は「彼らが最後に何を、どんな風に食べたのか?」という薄暗い好奇心を思うさま満たすことができるのです。
とくに、明日死ぬと本人がわかっている場合は、まさに極限メシ。
自覚がない場合でも、ほんのりと破滅の足音が迫っていて、あたたかで幸福感すら漂う食事風景が複雑な色合いを帯びてきます。
ごはんものファンタジーはカクヨムにも星の数ほどあるけれど、「この発想はなかった~!」と素直に膝を叩くことができる。というか、《ごはん》と《ファンタジー》を足して《最後の》で割るとダークファンタジーが生成されるの、シンプルに凄~~~~い。冷や汗が止まりません。
名作です。