6.ゴルファー桃太郎 ≪後編≫

【それまでの鬱憤うっぷんを晴らすようにつつきかかるきじに対し、犬はなだめようと言い聞かせました】


「おまえらの住処すみかに危害を加えたことは心より謝罪するぜぇ。だがこれもにくき鬼どもをこの山から駆逐くちくするため…平和を取り戻すために必要な過程だったんだと、見逃しちゃくれねぇだろうか」


やかましいわ! うちらは別に鬼からなんも実害受けてへんし、ゴルフも別にどうでもええし、そないな台詞せりふは実際に成しげてから言うべきなんちゃうんか!?」


「ああその通りだぁ…だがこれから必ず成しげる! この桃太郎がそのゴルフ人生に替えてでもなぁ!!」



——いや威勢の割に説得力が薄いな!? ゴルフはどうでもいいって言われてるじゃねぇか!?



「桃太郎…? ふーん、するとあんたは桃源郷とうげんきょうの出自っちゅうわけなんか?」



——え? 何そのまた新しい設定。台詞せりふ入ってるし。



桃源郷とうげんきょうとはなんだ? 僕はこの山にんでいたおじいさんおばあさんの家で育ったが、赤子の頃にふるさと納税の返礼品だった桃に紛れて運ばれて来た身らしいから、故郷も実の両親の顔も知らないんだ』



——言ってて馬鹿馬鹿しくなるなこれ。そんな出生の主人公に好感持ちにくいって。



「そうなんか…ほなら今回はその名前に免じて見逃したるわ。その代わりうちも付いて行って、あんたが鬼に勝てるんかきっちり見届けさせてもらうで」


わかった。必ずや鬼に打ち勝って、貴女方あなたがたには改めて謝罪を入れさせてもらおう』



——なんか意味深な感じで仲間になった!? らないから子供向けの紙芝居で伏線張るとか!!



きじも同行に加わった桃太郎は、愈々いよいよかつての《桃山ゴルフ倶楽部くらぶ》を乗っ取った、鬼の蔓延はびこる《鬼ヶ島カンツリークラブ》へと辿たどり着いたのでした】


『やい下賤げせんな鬼ども! 僕の名は桃太郎だ! このゴルフ場をかけて勝負しろ!!』



——ゴルフ場の前で宣誓していると思うと恥ずかしいにも程があるな…。



【すると《鬼ヶ島カンツリークラブ》の支配人である鬼が、桃太郎達の前に立ちはだかりました】


「ようこそお越しいただきました桃太郎御一行様。ですが本日はすでにスタート枠が埋まっておりまして、生憎あいにくではございますがプレーの受け入れが出来できかねますゆえ、改めてご予約のほど…」



——鬼めっちゃかしこまってくるじゃん!? やんわり門前払いされかけてるし…あとキャンさんの声が無駄に良くて怖いな!?



『このまま大人しく引き下がるものか! 僕はおじいさんとおばあさんのかたきを討たなきゃならないんだ!!』



——強引に主人公ムーブしてるけど、おばあさんと鬼との間には直接的な因縁はないんじゃないのか?



「ほう…貴方あなたはあの御老人のご家族でしたか。あの件はうに時効になったはずですが…まぁせっかくの機会です、ここで貴方あなたを返り討ちにして差し上げましょう。そのあかつきには、ここを我々のレジャー拠点として更なる開発事業を是認していただきますよ」


のぞむところだ!!』



——だから勝負の背景が複雑過ぎるんだよ!? 何のために戦ってんのかわからなくなるだろ!?



「お連れ様にも腕に覚えのある方がいらっしゃるようですので、ここはスクランブルスタイルで勝負を決めるとしましょう」


【説明しよう! スクランブルゴルフとは団体競技であり、チームメンバーが各々おのおのショットした中でベストボールを選択し、その位置から2打目をメンバーが1人ずつショットしてまたベストボールを選択する…という流れを繰り返すプレースタイルのことである!】



——紙芝居で特殊なゴルフのルール説明すんなよ!? そしてそのためのフリップをていよく紙芝居に挿入すんじゃねぇ!!



【こうして桃太郎はプロゴルファーだった猿と共に、支配人を含めた鬼達とのタッグマッチに挑むことになりました】



——よくよく考えたら犬ときじはゴルフクラブ振れないから初めから戦力外じゃねぇか!?



「今回勝負に使用するのはこの1,185y・Par4、崖越えのスリルを味わえるミドルホールといたします。それでは早速さっそく我々から打たせていただきますね」



——やけくそな距離だな!? 鬼の支配下ゴルフ場だからって盛り過ぎだろ!?



【鬼チームの1打目の結果は、フェアウェイ真ん中・残り527yの位置に付けました。対する桃太郎チームは、プロゴルファーだった猿から打つことになりました】


流石さすがは鬼どもの力だ…ティーショットで600y超えとはな。肩を並べてプレーすることなど到底出来できやしないだろう」


「だがこのままだと2打目でグリーンにるのは確実だろうなぁ。半端な打球では敵わないぞ、プロゴルファーだった猿よ」


「しかもこれ500yは飛ばさんと崖を超えられへんやないの!? 本真ほんまに勝負になるんか!?」



——もう紙芝居じゃなくてゴルフの実況解説になってるじゃねぇかよ!?



「いや、勝負にしてみせよう…そのための《KIBI-DANGO》の力、いまこそ見せる時! 一世一代のティーショットを刮目かつもくせよ!!」


【プロゴルファーだった猿が放った渾身こんしんの打球はややスライスしながらも見事崖を超え、残り674yとなる右のラフに落としました。しかしその限界を超えたショットと引き換えに、猿の腰も限界を突破しました】


「くっ…我がゴルフ人生に…一片の…悔いなし……!」


『よくやってくれた、プロゴルファーだった猿…あとはこの僕に任せてくれ』



——案のじょう老体がたたって駄目になってんじゃねぇか!! 結局桃太郎の孤軍奮闘状態かよ!?



【続く桃太郎も《KIBI-DANGO》の力で崖越えを果たし、残り605yとなるフェアウェイ左に落としました。よって桃太郎の1打目を採用し、ゲームはセカンドショットに移りました。しかし鬼の支配人は持ち前のパワーと地の利をかし、容易たやすくグリーンにせてしまいました】


「おっと、私としたことがつい本気を出してしまいました…ですが、遠慮なくバーディチャンスとさせていただきますよ」


「こいつはまずいぜぇ…桃太郎がグリーンにせるには1打目以上の飛距離を出さなきゃならねぇし、猿がお陀仏だぶつで実質一発勝負になっちまったからなぁ」


『くそっ…じかドラでもってランを稼ぐしかないのか…? だがいずれにせよ、グリーンに確実に寄せることは困難じゃないのか…?』



——自分で台詞せりふ読んでても全然収拾つく気がしないんだけど、どうなるんだこれ…。



【苦心する桃太郎がアドレスに入ろうとしたそのとき、足元から湧き上がってきた不思議なきらめきが桃太郎を包みました】


『なんだ…これは…!?』


【思わず茫然ぼうぜんとした桃太郎のもとへ、きじが近寄って来て言い聞かせました】


「やはりな…あんたにはうちが思った通り、桃源郷とうげんきょうの加護が付いとるんや」


桃源郷とうげんきょうの加護…? どういうことだ…?』


「この崖越えホールは最初からそう造られたんやない…かつての《桃山ゴルフ倶楽部くらぶ》を鬼が遊べる規模にするため開発造成した結果なんや。そして12年前にその造成の基盤になったんが桃源郷とうげんきょう…あんたの故郷っちゅうわけや。せやけど鬼に埋め立てられとっても、その神秘の力はだ生きとったんやな…!」


『そうか…つまり僕自身も、鬼への因縁があったというわけか…! それならば故郷を奪われた怒りを、この一打に込めるまでだ! 行けえええええ!!』



——なんか突然のご都合主義で盛り上がってるんだけど!?



【桃太郎の放ったじかドラのセカンドショットは、桃源郷とうげんきょうの奇跡の力をまとい、吸い込まれるようなカップインを引き起こしました。その瞬間を、空に舞い上がっていたきじしかと見届けていました】


すご…ほんまにやりよったわ! まさかのイーグルで桃太郎の勝利や!!」


『やった! やったぞ! 鬼に勝ったんだ…!!』



——勝って嬉しいというより、やっと終わるのかという安堵あんどの方が強いんだがな…。



流石さすがは桃太郎殿、人間の底力を我々は甘く見ておりました…それでは約束通り、このゴルフ場は如何様いかようにもなさってください」


いさぎよく敗北を認める鬼の支配人に対し、しかし桃太郎は手を差し伸べて語り掛けるのでした】


『ゴルフ場は鬼の手から解放させてもらう。だが貴方方あなたがた排斥はいせきするつもりはない…鬼も人間も、そして多くの動物達が等しく楽しむことの出来できるレジャーというものを、共に模索していこうではないか!』


【こうしてゴルファー桃太郎は鬼達と和平を結び、生きとし生けるものすべてが交わることの出来できるレジャーの実現へ、新たな一歩を踏み出したのでした。めでたしめでたし】



——なんか上手いことまとめて締めやがった!! 終わってみれば完全にゴルフの紙芝居でしかなかったじゃねぇか!?





「よーし、最後まで読み終えたな! おまえらどうだったよ、我が学友会の傑作けっさくは!?」



 リハーサルを終えて一息をいた祐希は、間髪かんぱつを入れずに感想を求めた。恵は何とも評しがた面持おももちで振り返ったが、千亜紀も春も何故なぜか涙ぐんでいた。



「んだよこのストーリー…劇的な展開過ぎて涙がちょちょぎれるぜ…」


「今までに読んだことのない秀逸な作品だ…制作陣が精魂せいこん尽き果てるのもわかるよ」


『なぁすまん、本当に感動できる要素あったのかこれ?』


「そうかそうか。キャンはどうだったよ、《ゴルファー桃太郎》」


『もう正式なタイトルも隠す気ねぇじゃねぇか』



 後方で終始表情1つ変えることなくリハーサルにのぞんでいたキャンは、祐希に促されてようやく口を開いた。



「その紙芝居やるくらいならみ●ゴルやった方がよくね?」


『いやそれはそれで元も子もない感想じゃねぇかよ!?』



*****



 翌日、学友会の面々によって紙芝居《ゴルファー桃太郎》は披露ひろうされたが、その後にじ込んだみ●ゴルの企画の方がどちらかといえば盛り上がったという。

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MORATORIUM CRISES 吉高 樽 @YoshidakaTaru139

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