第6話 阿波池田行きのバスへ
気がつくと、二人は「
「どうやら現代に帰れたみたいですね。
「斗南さんこそ高いところは苦手やのに、うちを助けてくれて」
「そんなこと、考える間もなかったですよ」
礼を述べた鐘子に、速登は髪の毛をかき上げながら照れくさそうに笑った。握りしめたままの「星の
「それにしても、まさか乃地日さんが宇宙人だったとは思いませんでした」
「乃地日さんとお
鐘子が扇子を懐に入れながらつぶやいた時、祠に寄りかかって眠っているような
「お父さん、起きてちょうだい」
鐘子が揺り起こすと、貴星は懐中電灯を持ったまま立ち上がった。
「あれ、もう皆既月食は終わりましたか。20世紀最長とか言ってましたが、なんだかあっという間でしたな」
「お嬢さんの踊り、見せていただきありがとうございました」
速登が貴星に頭を下げる。
「もう遅いし、そろそろ家に入ろっか」
鐘子は何事もなかったかのように浴衣の懐を叩いた。
○
翌朝、高校に行く鐘子と大学の寮に戻る速登は、
「ゆうべの事、なんだか今でも夢みたいやな。お父さんもずっと眠らされてたみたいで何も覚えてへんし」
半袖シャツにプリーツスカートの制服姿の鐘子は、朝日の眩しさに目を細めながら速登に話しかける。
「実は今朝この本を読み直していたら、中身の一部が変わっていたんです」
速登は『
「『乃地日の子、
「それって、もしかして」
鐘子は一つ前のページをめくり、かずら橋を渡った乃地日とお鐘が描かれた絵を見つめた。橋の下の岩に、着物姿の男と女が剣を持って立っている。
「ほんまや。うちら、やっぱりあそこにいたんやね」
鐘子は感慨深げにうなずく。
「乃地日さんの子どもと『地星祠』、恐らく繋がりがあるのでしょう。大学に戻ったら改めて調べてみます」
速登は本をリュックに入れた。
「うちらが『星の剣』を使えたのも、きっと乃地日さんの一族の子孫だったからやね。もうすぐ夏休みやし、うちも民宿のアルバイトがんばって、茨城に『地星祠』を見に行こうかな」
鐘子は組んだ両手を天に伸ばしながら速登を見る。
「もし来てくれるなら喜んで案内します。僕も祖谷が気に入りましたし。次に来た時はゆっくり観光させてください」
「そら嬉しいわ。秋の紅葉も素敵なんよ。今度は一緒にかずら橋を渡ろ」
「ありがとう。君と一緒なら渡れそうだよ」
鐘子の誘いに速登が笑顔で答える。奥祖谷のバス停に、阿波池田行きの路線バスが入ってきた。
終わり
祖谷の乃地日草子 〜月の扇子と星の剣〜 大田康湖 @ootayasuko
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