第5話 かずら橋落ちたら

(おかねさんたちはうちのご先祖かもしれないんや。必ず守らんと)

 鐘子は明かり代わりの「星のつるぎ」を持ち、お鐘の手を引きながらかずら橋へと走った。速登はやとが傷ついた乃地日のちひを守るように後に続く。

 かずら橋は人一人ほどの幅しかなく、鐘子でも少したじろぐほどの簡素さだ。速登が乃地日に声をかける。

「乃地日さんはお鐘さんたちと先に逃げてください。僕が追っ手を食い止めます」

「かたじけない」

 乃地日はお鐘の手を借りながら橋を渡り始めた。鐘子が振り返ると速登が「星の剣」を掲げてかずら橋の前に立っている。民宿へ向かう途中、彼が高所恐怖症だと言っていたことを鐘子は思い出した。

「うちが助けるから一緒に渡ろ。怖いなんて言ってられんよ」

「剣が使えるのも、男の言葉が聞こえたのも、僕たちが乃地日さんの星の血を引いているからでしょう。それなら僕にもかずらが伸ばせるはずです」

 速登は髪をかき上げると「星の剣」でかずら橋を指し示した。

「うちにも手伝わせて」

 鐘子は橋を引き返そうとするが、速登は「星の剣」を構えた。

「いえ、君をこれ以上危険にさらすわけにはいきません」

 三人の追っ手はすぐそこまで近づいている。速登の「星の剣」から光が伸びた。

「お願いだ、かずらよ伸びてくれ」

 「星の剣」の光がかずらを照らし、蔓が伸びていく。瞬く間にかずら橋の入口は生い茂る蔓で塞がれた。間一髪、男の放つ剣の光がかずらの壁で阻まれる。

『ならば!』

男の持つ「星の剣」から再度光が放たれた。光は橋を支えるかずらの蔓を切断し、橋が大きく傾く。

「ああっ!」

 鐘子は傾いた橋に足を取られて倒れた。とっさに欄干にしがみついた拍子に「星の剣」が川面に落ちる。

「鐘子さん!」

 川の流れる音を切り裂くように、速登の声が響いた。


 かずら橋の欄干にしがみつく鐘子の腕を速登の左手が掴む。鐘子は思わず呼びかけた。

「なにしとるん、斗南となんさんはかずらを伸ばしてや」

「大丈夫だ。乃地日さんが手伝ってくれてる」

 確かに橋の向こう岸から光の帯が伸び、男たちが伸びたかずらに絡めとられている。

『チセイも現地人も逃すな!』

 追っ手はかずらの隙間から乃地日めがけて「星の剣」の光を放った。鐘子のしがみつく欄干に火の柱が走り、かずら橋が切り落とされる。鐘子は垂れ下がったかずら橋から速登の腕で支えられているが、このままでは持ちそうにない。

「まだだ!」

 速登は橋から滑り落ちそうになりながらも、「星の剣」を欄干に突き刺した。欄干から新しいかずらが何本も伸び、鐘子の体を支える。

「斗南さん、あの石の上に逃げよう」

 鐘子は川縁に張りだした三波石さんばせきを見た。あと少しかずらが伸びれば足が付きそうだ。しかし、急激に「星の剣」の光が消え始める。

「くそっ、もう少しなのに」

 悔しがる速登の向こうに見える満月の縁が光り始めた。皆既月食が終わろうとしているのだ。鐘子はとっさに懐の扇子を取り出すと、空に掲げた。

「もう一度、うちらに力を貸して」

 月の光を捕らえた扇子が金色に輝き、斗南の「星の剣」に光をもたらす。かずらが更に伸び、鐘子と速登は三波石の上に降り立つことができた。

 その時、追っ手の「星の剣」と乃地日の「星の剣」が交差するように光を放った。かずら橋が炎に包まれ一気に燃え上がり、追っ手たちを巻き込んで崩れ落ちる。炎に照らされた向こう岸で、乃地日がお鐘に支えられながら伸ばしていた剣を下ろした。

 呆然と見守る鐘子と速登の目の前で、光に包まれた乃地日とお鐘の姿が揺らいでいく。タイムリープした時と同じ感覚だ。

「お鐘さん、元気な子を産んでね」

「二人ともお幸せに」

 鐘子と速登は叫んだ。

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